第7話 日記を読んでみましょう
夜、さも眠そうにあくびをすると気を利かせた侍女のナタリーさんが「では、お嬢様、お休みなさいませ」と言って部屋を暗くして出て行った。
さあ、一人になった部屋で早速マリアーナの日記を読んで見ましょう。
クマのぬいぐるみの背中からマリアーナの日記をソッと取り出す。
こちらの世界では日本のように電気はなく、魔石に魔力を込めて明かりをともすようだ。
ちょうど、枕元に置いてある円柱の台座にはめ込まれた野球ボール大の白い石に触れるとパッと明かりがついた。
先ほど、ナタリーさんがやっていたのを真似してみたが成功してホッとした。
ザ、日本人の私からしたら、魔力なんて未知の世界だものね。使えるか心配だったが、このマリアーナの体が覚えているようで難なく使うことが出来た。
明かりが部屋の外に漏れないように掛け布団をすっぽりと被り明かりの魔石を引き入れる。
なんだか、エッチな雑誌を親の目を盗んで読む中学生の男の子みたいだな。
日記の始まりは9歳の誕生日にこの日記帳を母親からプレゼントされたところから始まっている。
ちょうど、新年の祝賀会に出席するためにこの王都のお屋敷に来ていたようだ。
そして、父親からのプレゼントはこのピンクのクマのぬいぐるみ。
9歳の女の子のプレゼントにぬいぐるみは少し子供っぽいと思ったけど、なんと、クマの目玉は本物のエメラルドで出来ているらしい。
宝石入りのクマ・・・盗まれたら大変だ。
明日から背中にしょって生活するか?
まったく、宝石入りのぬいぐるみをプレゼントするなんて、迷惑この上ない。
この大きさじゃあ、ジュエリーボックスに入らないではないか。
オーダーメイドのぬいぐるみか。
いったいいくらなんだろう?
how much?
父親からプレゼントされてすぐに名前を付けたようだ。
名前は『ベリーチェ』
そして中に日記帳を入れられるように発注したのは母親だ。
誰にも見られない隠し場所を母親に相談したところ、母親が出入りの服飾屋にこのクマのドレスを作るという名目で内密で発注したようだ。
これは母親と二人だけの秘密らしい。
でもね、外に発注してる時点で秘密じゃないけどね。
この王都のお屋敷でマリアーナのお誕生日のお披露目会をして来客からお祝いをしてもらったのが嬉しかったと書かれている。
お披露目会?
うーん、日本で言うお誕生会とは規模が違うみたいだね。
だって、この国の王子様も来たみたいだから。
まさか、王子様とお友達だなんて言わないよね?
面倒くさいから近づかないでおこう。
日記を読み進めるうちにわかった事は、家族4人は仲良しだったってこと。
そして、父親とこの国の宰相をしている母親の兄とは仲が悪いらしい。
マリアーナの日記から読み取るに、シスコンぎみの伯父がマリアーナの父親を一方的に避けていると。
そのせいで、同い年の従兄と会えなくて寂しい思いをしていたようだ。
宰相ともあろう方が大好きな妹を取られていじけてるなんて、大丈夫だろうかこの国は?
母親のことはお母様、父親のことはお父様、兄のことは、お兄様、またはアンドレお兄様と呼んでいたようだ。
覚えておかなきゃ。
明日から、呼び名を気をつけよう。
心の中でも慣れるために『お父様』『アンドレお兄様』と呼ばなくちゃ。
それと、使用人達に「さん」もつけないっと。
初対面の人を呼び捨てとかなかなか厳しいな。
でも、慣れないとね。
あと、ご令嬢仕様の言葉使いか。
そして、ランさんはもともとマリアーナの母親に付いていた侍女さんでナタリーさんはマリアーナ専属侍女さん&話し相手。
だから、この二人も伯爵領と王都の屋敷をマリアーナ親子と共に行ったり来たりしてたわけか。
特にナタリーさんは歳も近いこともあって仲良しみたいだ。
この頃はミリーさんはこの王都のお屋敷に親子が来たときにお世話してくれる侍女だったようだ。
3カ月はこの王都のお屋敷で過ごして伯爵領に帰ったようだ。
伯爵領に帰って平和な日々が続くなか、兄のアンドレが学園に入学となった。
入学を期に寮に入るアンドレを見送るマリアーナの寂しい心情が綴られている。
そして突然日付が飛んでいた。
ちなみに日記で得た知識によると、この世界は日本と同じ7日間で一週間。
マリアーナの誕生日は2月10日だ。
曜日の呼び方は、
1ヶ月は30日間、1年は12ヵ月。
時間は24時間が1日。
違うのは曜日の呼び方だけなのでわかりやすくて助かった。
毎日書いていた日記が途絶える前日は『明日のピクニックが楽しみだ』と書かれていることからこのピクニックで母親が魔物に襲われて亡くなったのだろう。
そして、しばらく日記はお休みをしていたらしくまた書き始めたのは、この王都のお屋敷に引っ越してきてから、ちょうど母親が亡くなった一年後だ。
きっと、一年たって気持ちの切り替えが出来たのだろう。
なんてたってこの日記帳は母親からの最後の誕生日プレゼントだからね。
母親が亡くなってしばらくは領地で親戚と暮らしていたらしい。
ちょうど父親の妹が隣の領地に住んでいて面倒を見てくれていたようだ。
どうやら、マリアーナは領地から出たくないとごねていたみたい。
でも、領地でお世話になっていた叔母に赤ちゃんが出来たことで、我が儘を言って困らせる訳には行かないと引っ越しを決意したようだ。
マリアーナは王都のお屋敷に引っ越してきて一人の時間をこの日記を書くことで紛らわせていたようだ。
不健康な生活だ。
ちなみに王都の屋敷に引っ越してきたのはここ最近、三ヶ月前くらい。
ランさんとナタリーさんも一緒にこちらに来たようだ。
まだ領地にいた頃はそれなりにやんちゃな女の子だったようだけどね。
このお屋敷に来てからはほとんど外に出てないようだ。
子供はやっぱり外で遊ばなきゃね。
どうやらミリーさんはマリアーナがこの王都のお屋敷に引っ越してくる少し前に侍女長になったようだ。
同じ頃に執事も新しい人に代わったみたいだ。
前の侍女長と執事はご夫婦でマリアーナはとても懐いていたようだ。
侍女長と執事が退職してしまって残念だと書かれている。
そんな中で、父親が屋敷にあまり帰って来ないのは自分と顔を会わせたくないからだとも書かれていた。
母親が亡くなったのは自分のせいでそのことで父親はマリアーナを憎んでいるのだと。
児童軟禁に育児放棄。
やっぱり、あの父親を一発殴らなきゃ気が済まない。
そして、兄のアンドレも同罪だ。
学園の長期休暇で帰ってくるのを楽しみにしていたマリアーナの期待を裏切ったようだ。
父親は屋敷帰って来ないときはどこに寝泊まりしているのかな?
まさか! 女がいる?!
その時、誰かが階段をあがってきた足音がかすかに耳に届いた。
私は反射的に日記帳をクマの背中に押し込み、明かりを消した。
ガチャという音とともに誰かが部屋に入って来た。
寝たふりをしている私の心臓はバクバクだ。
「マリア、ただいま。いつも遅くなってごめん。今日も私のお姫様は可愛いね。やっぱり、毎日君の寝顔を見ないと落ち着かないな。だから、どんなに遅くても毎日帰ってくるのは苦にならないよ。あ、でも転落事故の時は寝顔を見ても気が休まらなかった。軽症のわりに目覚めるのが遅くて正直生きた心地がしなかったよ。でも良かった。声が出るようになったら王城の神殿に連れて行ってあげるよ。可愛い子犬がいるんだ。お休み、マリア」
父親はそっと私の額にキスをすると部屋を出て行った。
毎日帰って来てる?
たまにしか帰って来ないんじゃないの?
どういうこと?
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