第2話 いきなり転生?

 夢を見ていたと思う。

 暖かくてそして悲しい夢。


 身体がふわふわと浮いていて不安定で何かに掴まりたくてもがく。


 遠くの方で誰かの声がする。

 あ、私の行くべき所はあそこだ。

 早く行かなきゃ。

 あの暖かい光が消えてしまう前に・・・



 ***************



 ストンという物理的な体への衝撃とフワッとした気分の向上で目が覚めた。


 ゆっくりと目を開ける。

 天蓋付きのベッド?

 ここどこ?

 私、死んだんだよね?


 私の右手を誰かが握りしめている。

 誰やねん?

 金髪の男の人だ。

 はて、私の知り合いに金髪男性なんていたかな?


 この人、私の手を握りしめながら寝てしまっているようだ。


 男性を起こさないようにそっと手を外して上体を起こすと、サラサラの長い髪が胸元に落ちてきた。


 げっ、何これ?

 ピンクゴールドの髪の毛?

 私の髪の毛か?

 引っ張ってみると、地味に痛い。よく見ると手も小さい気がする。


 子供の手?


 そっと刺されたお腹を触ると傷もないようだ。傷も無いけど胸もない。どこいった? 私のバスト!


 これは子供の体?


 えっと、これって転生?


 死んだ私の魂がこの女の子の体に入り込んだ状態ってこと?

 じゃあ、この体の持ち主の魂はどこ?

 死んじゃったってこと?


 ピンクゴールドの髪の毛なんて日本では無いことは確かだ。

 って言うことは、もしかして異世界?

 あのラノベとかで良くあるやつ?


 ははは、まさかね?


 これって夢?


 頬をつねると地味に痛かった。

 うっそ! 夢じゃない!


 い、異世界に転生しちゃったよ!

 ど、どうしよう?!


 どうしようって、どうしようもないよね?

 だって自分でどうにか出来ないもんね?


 そうだ、あの子犬はどうなったかな?

 優しい飼い主が見つかってると良いな。


 少し冷静になって周りを見渡すと私の左隣に体長80センチはありそうな大きなクマのぬいぐるみがどっしりとお座りをしていた。


 うお! 可愛い! 自慢じゃないが私は小さい頃から可愛いものが大好きなのだ。

 27歳になった今も縫いぐるみや可愛い置物を集めるのをやめられない。

 趣味が共通の妹と一緒に良くプレゼントしあったものだ。


 しかもこのくまちゃん、色はピンク。

 ペパーミントグリーンのドレス着用。

 なんてラブリーなんだ。

 思わず、くまちゃんを抱っこする。

 モフモフだ。


 異世界だから本当にピンク色したクマがいるのだろうか? 

 謎だ。


 周りを見渡すと確かに内装が子供部屋のテイストだ。


 さて、これからどうすればいいのかと悩んでいると寝ていた金髪男性が起きたようだ。

 綺麗なエメラルド色の目が信じられないとばかりに見開いた。

 おお、なかなかのイケメンだ。


 そしてくまちゃんごと思いっきり私を抱きしめた。

 く、苦しいです。


「マリアーナ! 意識が戻ったのか?! 良かった、良かった、本当に良かった。よく戻ってきてくれたね。マリア、マリア、私の可愛いマリア。父様はこの三日間生きた心地がしなかったぞ。そうだ、医師を呼ばなくては」

 金髪男性はそう言うとあわただしく部屋を後にした。


 どうやらこの体の女の子の父親のようだ。

 途中、ストーカー男と似たような発言をするから身構えてしまったではないか。


 これ、絶対バレちゃあかんやつじゃん。

 あなたの娘さんは死んでしまって代わりにアラサー女の魂が入ってますなんて、口が裂けても言えない。


 この体、大切に使うと誓います。

 ちゃんと、親孝行もします。

 どうか、お許し下さい。


 程なくすると、ドヤドヤと何人かが部屋に入ってきた。


「マリア! 目が覚めたんだって?!」

 そう言って飛び込んできたのは10代前半くらいの男の子だった。

 わお! 天使だ! 天使がいる!


 それは、金髪にエメラルド色の瞳の美少年だった。

 この子のお兄ちゃんかな?


 美少年は私をギュッと抱きしめると頭にチュッとキスをした。


 やだ、お姉さんったら照れちゃうよ。


 あ、三日間寝たきりだったようだけど臭くない?


「アンドレ様、さあ、お嬢様のお着替えをいたしますので一旦お部屋からお出になって下さいませ」

 メイド服姿の女性にそう促されしぶしぶ美少年は部屋を出て行った。


 それから三人のメイドさんに浴室で体を洗われ、新しい部屋着を着せてもらった。


 体を洗われるのには抵抗があったが、三日間寝たきりだったせいか体が思うように動かせないのと浴室をどうやって使用すれば良いのか不明なためメイドさん達に身をまかせたのだった。


 だって、水道の蛇口はあってもレバーがないのだ。

 メイドさんの動きを観察していてわかったよ。


 水を出すときは壁にはめ込まれているゴルフボール大の透明な石に、お湯を出すときは赤い石に触れると良いようだ。


 お世話をされながらメイドさん達の名前をチェックするのも忘れない。


 気になるのは三人のメイドさんのうち一人に嫌われているらしいということ。


 ふと気づくと睨まれているような気がする。

 名前はランさん。

 明るい茶色の髪に淡い水色の瞳の20代前半くらいの美女だ。


 兄に部屋を出て行くように言っていたのはミリーさん。

 鮮やかな青色の髪にこれまた青い瞳。

 ランさんよりも少し年上に見える。

 どうやらこのミリーさんが三人のメイドさんのリーダーのようだ。


 そして後一人はまだ10代後半だろうと思われるナタリーさん。

 蜂蜜色の髪に淡い緑色の瞳の笑顔が可愛い子だ。


 水分補給とパン粥の食事が終わったころ、父親が執事らしい服装の男性と医師らしき白衣のお爺さんを連れてきた。


「どれどれ、マリアーナ嬢、気分はどうじゃ? どこか痛いところはないかのう?」


 その問いかけに口を開いたが、私の口からは言葉を発することができなかった。


 え? 声が出ない?

 なぜだ!

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