【完結】二度目の人生は悔いの無いように寿命を全うするつもりです

見崎天音

第1章 転生編

第1話 プロローグ

 私は秋本満里奈、婚活中の27歳。


 友達からは理想が高すぎると言われ早5年。


 ハードルを下げるには遅すぎた。

 ここまで待ったんだ絶対理想の旦那をゲットするぞ! と、言うことで未だお一人様コースを邁進中。


 そろそろ後輩から煙たがれる年齢となってしまった。

 お一人様は気楽で良いんだけどね。

 やっぱり、一度は嫁に行きたい。

 モテない訳ではないんだよ?

 ただ変な奴にしかモテないんだよね…

 まあ、いつの日か嫁に行けることを夢見てせっせと自分磨きに勤しんでいる今日この頃です。


 もちろん、仕事も手を抜きませんよ。


 今日も私が所属している医療機器メーカーの開発部で義肢装具士の麻生さんと新開発の義肢について会議中。


 あまりに白熱してすっかり帰宅時間が過ぎてしまった。


「あー、もうこんな時間ですね。そろそろ帰りましょうか」そう言う私にまだ改善点はないかを真剣な顔して考え込んでいる麻生さん。


 ふふふ。

 義肢に関しては妥協を許さない麻生さんは素敵だ。


 確か、妹さんが交通事故で足を怪我したのをきっかけに義肢装具士になったって言ってたっけ。


 まだ少し残ってデーターを取るという麻生さんを残して私は会社を後にした。


 そしてその30分後、変態ストーカーと対峙しています。

 どうやら仕事帰りを待ち伏せされたらしい。



 いきなり後ろから口を塞がれ、暗い路地に連れ込まれた。


 婚活中のアラサー舐めんなよ!


 習い事と名のつくものは一通り網羅したのだ。

 その中に有名格闘技家から伝授された護身術もあった。


 この半年間、悩まされたムカつくストーカー男に反撃してやる!

 なかなか姿を見せない変態やろうにじれてたところなんだ。

 恐怖心よりも今までの嫌がらせの数々が思い出されて怒りでアドレナリン全開だ。


 さあ、思いっきりいかせてもらいましょう!


 そう自分に気合いを入れて足を踏ん張った。


 ハイヒールのかかとで思いっきり男の足を踏みつけ、怯んだ隙に肘鉄をかまし距離を取る。


 あとは人通りのあるとこまで走って、警察に電話だ。

 そう頭の中で段取りをつけると一歩後ずさった。


 すると、ストーカー男の足元にどこから現れたのか真っ白な子犬がヨタヨタと歩いてきた。

「邪魔だどけ!」

 男はあろうことか見るからに弱々しい子犬を足で蹴り上げようとしたのだ。

 私はとっさに子犬の元に駆け出した。

 あんなに小さいんだもの蹴られたら死んじゃう!

「ダメ!!」

 子犬を無事に抱きかかえた瞬間、お腹に焼けるような鋭い痛みが走る。


「ああ、満里奈! やっぱり僕のところに戻って来てくれたんだね。僕はね、どんな君でも愛せるよ。例え死体となってもね。可愛い、可愛い満里奈。僕だけの満里奈」


 ああ、私、ストーカー男に刺されたんだ。

 どこか他人事のようにぼんやりと思った。

 私、死ぬんだ。

 すると、腕の中で子犬が「クーン」と鳴いた。

 その声にハッと意識を戻した。

 まってまって、ここで、この男の前で死んだらどうなるの?

 死体でも愛せる? 死んでからもこの男に辱めを受けるなんて冗談じゃない。


 最後の力を振り絞りお腹からナイフを抜くと男の足にそれを突き刺した。


「ギャー! 痛い! 痛い!」


 その場に転げ回る男を後目に私はヨロヨロと歩き出した。

 男から離れなきゃ。

 右手に子犬、左手はどくどくと流れる血を止めるように腹部を押さえた。


 前方に目を向けると地面が光っているように見える場所があった。


 何だろうあれ? 


 あの場所まで行こう。

 頑張れ私、まだ歩けるよ。



 そして

 光の中に落ちていった。



 ***************




「おい! 人が倒れているぞ! 黒髪? これは、界渡りの乙女だ! ダル、応援を呼んでくれ」


「おう! わかった! 待ってろ!」


 青年らしい声が耳に届いた。

 どうやらストーカー男からは無事に逃げ切ったようだ。

 でももう私の命は限界だ。


 ああ、何にも悪いことしてないのにストーカーに刺されて死ぬ運命なんてあんまりだ。

 唯一、スッキリしたのは最後にあいつに反撃できたことだね。


 どんな人が私の最期を看取ってくれるのかな?


 重い瞼をそっと開けると心配そうに私を覗き込む青年の顔があった。

 青みがかった銀髪にルビーのような瞳の美青年。

 外人さん?

「綺麗な瞳。ルビーみたい・・・」


 思わずつぶやいた私の言葉に青年は驚いたように目を見開いた。

 あーイケメンは驚いた顔も素敵だな。


 赤いカラコンに騎士のコスプレ? どうやら、なにかのイベントの帰りらしい。


 大丈夫、お姉さんはそう言うのには理解あるんだから。

 三つ下の妹がね、引きこもりのオタクだったからね。

 妹に付き合って、ゲームもアニメも制覇。

 戦闘系のゲームは実は妹よりもはまってたからね。


 それにしても、最後に目にしたのがこんな美青年の顔で良かった。

 眼福、眼福。


 お父さん、お母さん、ごめんね。

 花嫁姿も孫の顔も見せられなくて・・・

 妹の美月に期待してね。


 ああ、それにしてもくやしい。


 私の人生、後悔ばかりだ。


 こんな事になるなら、ダメもとで麻生さんに告白しとけば良かった。

 あ、でも告白した相手が死ぬなんて麻生さんも目覚めが悪いか。


 今度生まれ変わったら、寿命を全うするぞ!

 前世で出来なかったこと、諦めてやらなかったこと、すべてに挑戦しよう。


 勉強もスポーツも恋も結婚も全力投球で挑もう。

 出会った人達に友情と愛情を惜しみなく注ごう。


 あー幸せな結婚したかったな。


 サヨナラ私の人生。


 私は美青年の目を見て最後の力を振り絞って微笑んだ。


 私の横で子犬がクーン、クーンと鳴いている。

 そうだ、この子のこともお願いしなきゃ。

 白いふわふわの毛にまん丸の目。

 この子はスピッツの子犬かな。


 血の付いていない右手で子犬の頭を撫でる。


「この子が…た、すかって、良かった。こ、この子犬、よろしくお願い、します。この子が、じ、自分から、な、懐いた人がいたら、良い、な」


 気が遠くなるのを奮い立たせて懸命に言葉をつなぐ。


「分かりました。犬の事はお任せ下さい。一つだけ聞かせて下さい。あなたを襲ったのは魔物ですか?」


 良かった日本語が通じた。

 それにしても魔物? 

 悪いやつかを聞いてるのかな?

 外人さんだから言い回しが独特なんだね。

 うーん、魔物というか・・・


「へ、、変態、ス、トーカー、で、す。 悪知恵、の、はたらく」


「ヘンタイス・トーカ? 聞いたことがないな。ま、まさか、新種の魔物か? しかも知能があるのか。しゃべらせてすみませでした。今、王城の医師団へお連れするのでもう少し頑張って下さい」


 し、新種? 王城? 突っ込みどころ満載たけど、突っ込む気力なし。


 医師団って医師のいる所ってこと? ああ、病院か。


 もうきっと間に合わないよ。

 でもなんとか助けようとしてくれるんだね。優しいね。その気持ちだけで十分です。


「やさしい…のね。あり、がとう…」


 そうだ、せめて名前だけでも聞いておこう。


「わ、わたしは…満里奈まりな秋本あきもとあ、あなたは?」


「俺は、ジークフィード・トライアンです。マリナさん、もうすぐ馬車が到着します。それまで頑張って下さい」


「ジークフィード・トライアン…す、すてきな、なまえね。さ、い、ごに…騎士、さま、に、会えて、よ、、良かった…あなたと…け、結婚する、女性ひとは…しあわせね…サヨナラ、ルビーの騎士様…」


「マリナ!」


 ごめん、もう頑張れそうにないや。

 あなたのように優しいイケメンと結婚できる女の子はきっと幸せだね。


 そして意識が完全にフェードアウトした。

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