第2話 旅行の案内が届いた

3日後、俺は宇田川と秋葉原に行った。

目的はないが、同人雑誌とかパソコンをブラブラ見て歩くだけだ。宇田川は両手一杯に同人雑誌とゲームを買っている。そうか、こいつの外見に似合わない筋力は、こんな所で鍛えられているのか。

帰りの電車で赤川と蜜本と一緒になった。2人は渋谷からの帰りらしい。

俺が見てると、赤川が気付いて「あらっ!」という感じになった。

「買い物?」

と俺から声をかける。

「あ、宮元君と宇田川君。今度の旅行に着ていく水着を見に行ったんだ」

と、蜜本が答えた。

「どんなの?ビキニとか?」

と俺が言うと

「えー、秘密だよね。アカ」

とちょっと小悪魔的に蜜本は笑った。この辺が男共を手玉にとる秘訣だろう。で、その巨乳でビキニだったら、男は瞬殺だろうな。

「え、うん」

と赤川は恥ずかしそうに返事した。

清楚だなぁ。やっぱ女の子はこうでなくちゃ。

「アカが買った水着、けっこう大胆なんだよ。2人とも見たいでしょ」

「やめてよ!ミツモこそすごいじゃない。私ばっかり・・・」

俺達はこの会話だけで妄想の世界に入ってしまった。赤川の水着・・・ビキニ、トップレス・・・・

現実にはありえない姿を妄想しているうちに、2人の会話は別の方向に進んでいたようだ。

「でも柴崎君が連れてってくれるリゾートって、一体どこなんだろう?」

「雑誌にも(Sグループ新大型リゾート開発中)って書いてあっただけで、あんまり詳しい事は載ってないんだよね」

「あと柴崎君のお兄さんって、大学で物理か何かの専攻だったよね。東工大出身だっけ。どうしてリゾート開発と関係あるんだろ」

「今の日本に、電話も通じなくて道路も通ってないところなんてあったのかな」


駅で彼女達2人別れてから、突然宇田川が話しだした。

「やっぱり赤川は可愛いよな」

独特の低い話し方だ。

「さっき水着の話の時、ドキッて来たよ」

俺は「宇田川も赤川がイチオシなのか?」と聞いた。

「高校入った時からチェックしてました!」デカい頭を振りながら答えた。

「ちっ、競争率高いよな」

「宮元も赤川を気に入ってるのか?」

「俺だけじゃない、吉岡もだよ」想像だけど当ってそうだ。

「ゲッ、吉岡もか。宮元なんか目じゃないけど、吉岡は強敵だな」

「おまえに言われたかぁないよ」

急に宇田川は話題を変えた。

「ところで宮元、オマエ赤川の胸の谷間、見たことあるか?」

「な、なんだよ、いきなり、あるわけないだろ」

「俺はあるぞ、こないだ実験の授業の時、目の前の赤川が屈んだ時、見えたんだ」

宇田川は勝ち誇ったように言う。

「だからどうしたんだよ」

少し興味があったが、ぶっきらぼうに俺は言った。

「けっこう赤川って胸あるんだよな」

いかにも大事な事のように宇田川は言いやがった。

「そりゃあ良かったな」

俺はこいつの尻を蹴飛ばしてやりたい衝動にかられた。

「俺の勝ちだな、1ポイント・ゲット」

今度こいつにパソコン・ゲームを返す時、ウイルスでも仕込んでやろう。

俺は根の暗い復讐を計画しながら、宇田川と別れた。


旅行まであと1週間という時、秋田から電話が来た。(俺はメールの返信が遅いそうだ。)

なぜか俺に連絡をくれる女子は不美人ばかりだ。女は本能的に自分を邪険にしないヤツを見分けているのだろうか?

「なに?なんの用?」

「別に何でもないんだけどさー、ヒマしてるかと思って」

「なんだよ、何か面白い事でもあったのかと思った」

「実はね、ソノちゃんと吉岡、危ないかもしれないんだよ」

ソノちゃんとは園田礼子のことだ。

「え、旅行まであと1週間だぜ。それで大丈夫なのかよ」

「だから電話してんだよ。なんか吉岡の行動が怪しいし、ソノちゃんも今飽きてるっぽいよ」

「秋田、それ誰かに話した?」

「まだ宮元にしか言ってないよ」

「だったらもうあんまり人に言うな。こういう問題は周りが騒ぐと、余計に終わりになりやすいもんだ。ほっといた方がいいよ」面白いのはわかるけどな。

「へー、友情見せてるじゃん。でもこの旅行がポシャると困るのはアンタラだもんね」

「別にそういうんじゃない。普通のことを言ってるだけだ」

女は変な連帯感があるから、ここでそんな問題が持ち上がったら「女子全員が不参加」ということも考えられる。

「そういえば宮元ってアカのこと好きなんだって?」

急に核心ついてきやがってコイツ。

「まあ、うちの学校では一番いいんじゃないか」

「ふーん、でもアカって暗くないか?」

「おまえみたいにうるさいよりマシだろう」

「言ってくれるね、でも多分宮元じゃムリだよ。あの子けっこうヤリ手だから。それにもう好きな人いるらしいよ」

こいつ、顔だけじゃなく心までブスな女だな。しかし俺は「赤川の好きな男」というのが気になっていた。

「そりゃ、好きなヤツぐらいいるだろう。秋田は誰だか知ってるの?」

「知らないよ。でも宮元じゃない事だけは確かだと思うよ」

「じゃあな、おやすみ」

俺は一方的に電話を切った。役立たずといつまでも話しているほどヒマ人じゃない。


旅行3日前、俺のところに簡易書留で旅行案内書が届いた。

案内書には「8月5日午前8時までに、所沢駅前西口バス停に集合」と書いてある。

なお「当ツアーに関しては係員の誘導に絶対に従っていただきます。この事にご賛同いただけない場合は、真に残念ながらご参加はできません」

今更、参加しないわけにはいかない。なにせ赤川も行くしね。みすみす他のヤツにチャンスを譲る気はない。賛同しましょう。

「ホテル内に全てのタオル、バスタオル、石鹸・シャンプー・リンスなど洗面用具一切、ドライヤー、シェバーまで全て揃っています。携行品はできるだけお持ちいただかないようにお願いいたします。なお携帯電話、Wi-Fiなどはご使用になれません。当リゾートでは自然に親しむという趣旨を取っていますので、これらの通信機器等も出来るだけお持ちいただかないようにお願いします」

ともかく持ち物はできるだけ少なくしろ、と言いたいらしい。

「なお、特別公開ご招待のお客様には当リゾートの感想をお願いいたしますが、今回に限り、列車やホテル内で多少ご疑問の事がありましても、ご質問はご遠慮ください。」

これはなんだ?普通、旅行案内のしおりにこんな事書いてあるか?

俺はすっごく疑問を感じたが、とりあえず無視することにした。

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