夏休みの思い出は平安で

震電みひろ

第1話 プロローグ、または夏休みの前日にて

 俺にはよく見る夢がある。

詳しい内容は覚えていないが、誰かが龍のような怪物に追われている。

俺はそれを助けようとするのだが、手足が動かないだけでなく、声も出せない。

場所はいつも同じだ。だが現実では知らない所だ。夢の中だけで出てくる場所だ。

そして目が覚めると、夢の内容や場所は、ほとんど覚えていない。


「おい、宮元。おまえ夏休みの予定、何かある?」

終業式の日、帰り際に柴崎がこういきなり聞いてきた。

「いや、8月からは特別なにもないけど」一応ね。

「じゃあさ、海行かない?リゾートホテル付きのヤツ」

「リゾートホテル?それって高くないか?」

柴崎は得意そうにこう言った。

「俺の兄貴の会社でさ、新しいリゾート開発を手がけていて、そこが一般にオープンする前に試験的に様々な人を招待するんだよ。俺の家族もそれに当たったんだ。だけどオヤジ達は行かないって言ってるから、俺が貰おうと思って」

「そりゃラッキーだな。でもどこにあるんだ、そのリゾートホテル?」

「それが詳しい事はわかんねえんだ。教えてくれないんだよ。でも兄貴も職員として行くから大丈夫だよ」

柴崎は自信タップリだった。俺も面白そうだし、かなり乗り気になっていた。

「わかった。いこうぜ。あと誰を誘う?」

「宇田川と吉岡にはもう声かけてあるんだ。それと女子を誰か誘おうと思ってるんだが」

吉岡でピンと来た。吉岡守は園田礼子と付き合っている。そのグループの蜜本香がこいつの狙いなのだ。蜜本は弓道部一の美人で巨乳だ。そして柴崎は弓道部の部長なのだ。入学当初から蜜本に目をつけていた事を、俺は知っている。でもモロにこれを言うと友情壊すだろうな。

と、そこへクラス1のキャピキャピ娘・秋田がやってきた。

こいつ自体は顔面偏差値35以下なのだが、可愛い子のグループにいるので邪険にはできない。おまけに女子グループの中ではリーダーっぽいし。でもクラスの男子はコイツを鬱陶しいと思っている。

「何、男同士で頭くっつけあってんだよ。おホモ達じゃなーい。あやしー」

柴崎がすかさず言って返す。

「バーカ、夏休みの旅行についてだよ」

「男だけで?なおさら怪しいじゃん。かわいそうだからアタシらが行ってあげようか?」

俺達はすかさず顔を見合わせた。こいつは邪魔だがここで秋田をのけ者にしたら、他の女子にも行かせないように妨害するに違いない。そういうヤツだ、コイツは。

それよりコイツから他の女子を誘わせた方がいい。俺達は言葉を交わさず了解しあった。

「ああ、行こうぜ。あとだれを誘う?」と柴崎。

「アッコちゃんとね、(顔面偏差値33)タニさんかな(判定不能)」

冗談じゃねえ、それだったらおまえを連れてく意味がねえ。

「蜜本と赤川は?」俺は打診してみた。

秋田はちょっと不満そうに

「ミツモとアカー?あの2人は予定あるんじゃない。2人とも忙しいから」

女は自分より美人は誘わないものだ。

「いや、吉岡も行くと思うからさ、そしたら彼女の園田も来たいだろ。それだったら同じグループの蜜本と赤川も誘った方がいいんじゃないかと思うぞ」

うまいぞ、柴崎。さすが口先だけで中学時代から彼女を作ってきたヤツは違う。

「わかった、一応誘ってみるよ」

少し不満そうな秋田。

「じゃあ、いま一緒に言いに行こうぜ」

柴崎はすばやく立ち上がると、帰り支度をしている蜜本と赤川の所へ行った。

正しいよ、おまえは。秋田に任せといたら、本当に誘うかわかんないしな。


ここで自己紹介。俺はみやもと宮元駿馬。高校2年生。都立高校に通っている。成績は中の下。

趣味はゲーム、パソコン、サバゲ。あと時々バイクを乗り回すくらいだ。

身長172センチ。体重58キロ。彼女いない歴=人生全部。今まで俺の事を好きだって女の子もいたけど、向こうも付き合ってくれって言ってこなかったし、俺から特別言う事もなかった。今好きな子は赤川こずえ。身長は156センチ体重45キロ。なんで知ってるかって言うと、保健係が身体測定の時、頼みもしないのに教えてくれた。細めで顔立ちも可愛くてきれいって感じ。あんまりクラスで目立つ方じゃないけど、密かにライバル多しってところだろう。


柴崎の決死の説得が聞いたのか、2人の可愛い子は快くオッケーした。

帰りに宇田川と吉岡、園田、秋田、赤川、蜜本と全員でマックへ行き、計画を立てる。

簡単にみんなの紹介をしておくと宇田川は身長183、水泳部でも運動神経はちょっと。頭が大きく数学と物理では学年トップだ。顔はガリ勉タイプなのにクソ力の持ち主。

吉岡は無口だがスポーツ万能、バンドをやっている。文系のクラストップだ。俺とは家が近く、小学校時代からの腐れ縁だ。柴崎は弓道部の部長、女にはけっこう手が早い。意外な所で歴史に詳しい。


柴崎が話を仕切った。

「じゃあ、出発は8月5日からで7泊8日な。12日に帰ってくるから」

蜜本が聞いた。噂の巨乳をテーブルに載せて腕を組んでいる。

「ねえ、ホテルの名前とか電話番号とか、本当にわかんないの?それだとウチの親が行かせてくれるか、わかんないよ」

女の子としては当然の心配だろう。

「それが今度のリゾートは極秘らしくて、絶対に教えてくれないんだよ。でも一応パンフはあるから女の子にはそれを渡すよ。でも色んな大学の先生や各界の著名人が行くんだから、絶対大丈夫だよ。うちのアニキが保証するって」

「電話もつながらないの?」と赤川。

「うん、ホテルは自然のままに建てているコテージ形式なんだ。だから電気製品はほとんどなし!すごいだろ」

宇田川が聞く。

「おれ、5日にちょっと用事があるから、後からバイクで行くよ」

「あっと、それもダメ。交通機関は専用列車でしか入れないんだ。なにせ自然のまんまだそうだから」

柴崎はやたらと『自然のまま』を強調してるなぁ。

「今時の日本に本当にそんなトコ、あるのか?」

「それがあるからすごいんだよ。なんでも今までのリゾートの常識を越えるらしいぜ。それで極秘な上、各界の著名人と社員の家族を一部招いて、試験的にオープンして見ようという事らしいぜ」

柴崎は「各界の著名人」という所に力を入れた。

話は決まって後は2時間ほど、1学期にあった事を色々話して解散になった。


帰り道、俺と柴崎と吉岡の3人になった。

柴崎が口を切った。

「俺達もこれで高校2年の夏休みか、来年は受験だし遊べないよな」

吉岡が返す。

「浪人覚悟で遊べば?」

柴崎は小石を蹴りながら

「俺は浪人する気はないよ。どこでもいいから入れる大学に入るつもりさ。それよりこの夏休みを逃したら、彼女ができるチャンスは当分来ないんだぜ」

俺が笑いながら言った。

「別にあせんなくたって文化祭だってあるだろ」

「おまえはそんなこと言って、去年からずっと彼女いないだろ」

うるせー、生まれてこの方ずっとだ。

「やっぱ、決める時に決めなきゃダメなんだよ。先に伸ばしてちゃ、いつまでたっても彼女はできないぜ」

妙に説得力のあるセリフだ。これを別のシーンで使えれば、こいつもきっと大物になれるだろう。

吉岡は先を見越してるように笑いながら

「柴崎、この旅行でモノにするつもりなんだろ?」

「トーゼンだよ。蜜本の処女膜をこの旅行でゲットするぜ」

「処女かどうかはわからんだろ?」

と俺が言う。

「おまえ、そういう事ゆーか!」

いきなり柴崎は俺の首を絞めにかかった。

「けっこう派手そうだからな、蜜本は。」吉岡も同意した。

「そーか、おまえも赤川派か?」柴崎は俺と見比べながら言った。

「まあ赤川は、けっこういいんじゃないの」

いつもながら吉岡はあいまいな言い方をする。

吉岡はスポーツ万能でバンドもやってるから、当然女子には人気がある。中学時代から彼女が途切れた事がない。こいつ園田と付き合っているクセに、赤川も狙っているんじゃないだろうな・・・旅行前に下剤でも飲ますか?

「宮元、おまえこそどーすんだよ」柴崎は俺の対応を面白がってる。

俺は2人の方を見ずに答えた。

「まあ、状況次第ってとこかな。事態は流動的」

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