DAY1 影
僕は今、街を一人で歩いていた。この街は遠いところから誰かがやってくるほど有名なものはなにもないが生活に不自由なほどではなく、娯楽にも事足りる。しかし、僕は彼女のところに入り浸っていたのでこうして外に出て歩いているというのは久しぶりなことである。
何故そんなことをしているかというと彼女に、
「今日は一人で不思議を探してみてよ。街にでも行けば不思議なこともあるだろうしね」
と言われたからである。
「見つからなくても良いからさ」
ともいっていたので散歩感覚である。
結局、“不思議”は見つからなかったが、僕的に“疑問”に思うことなら見つかった。見つかったというより、いつか疑問に思ったことを思い出した、といったほうが正確なのだろう。
彼女にはこの“疑問”について話そうなどと考えていると彼女の家に着いた。
「お帰り。なにか不思議なことは見つかったのかい? あまり期待はしてないからなかったならなかったでいいんだよ?」
「まぁ、その不思議なことっていうのは見つからなかったんだが疑問に思ったことなら1つほどあったぞ」
僕の疑問というのは気にしない人もいるであろうような些細なものだった。というのも「地面、もしくはそれに準ずる平らな面に接している物体があるとする。光源がその物体の真上にあるとき、その物体に影はあるのか? 」
というものだった。少し考えれば分かりそうなものなのだが、確かめる術は無い、と僕は思ったのだ。物体の下を覗こうとしても、面と面でピッタリとくっついているので見えるわけがない。ガラスような透明なものの上に物体を置き、光源を真上にして下から見ようとしても、反射した光が下から入ってくるので確かめられない。という訳だ。途中で考えることを放棄した僕はこの話を彼女へのお土産としたわけだ。
この些細な疑問を聞いた彼女は、
「まるで思考実験だね。僕が思いついた考え方を教えてあげるよ」
と言った。今話した僕の疑問をこの短時間で解いたというのだろうか? 僕にそんなことはできない。だから疑問として残っているのだ。
「そもそも影がなぜできるのかを考えるんだ。そこに光を遮るものがあるから影ができるんだろう? 君の言っていた“物体”が透明でもない限り、つまり、光を遮らない物体でない限り、影が目視できなくったって影のできる条件は揃っているってことなのさ。違うかい?」
僕に反論や更なる疑問を抱くことを許さない怒涛の説明だった。
少し悔しくなった僕は彼女にこんな質問をした。
「なんで僕とお前が会っているのに今日のDAYカウントは1なんだ?」
しかしながらそれにも彼女はすぐに答えた。
「今日の話の主軸は君が一人で不思議を探すことであり、そこに僕は出てこない。僕が出てきたところは後付けみたいなものだからね。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます