DAY1 不変
彼女の突然の思いつきによって不思議を探すことになった僕は、友人に電話することにした。彼ならそういう話をいくつか知っているだろうと踏んだのだ。
僕と彼女と彼。この三人で幼馴染をやっていたんだ。彼女が僕を振り回し、彼が僕をサポートしてくれる。彼女が家から出ずに僕を振り回し僕が彼を頼るところまでその頃とおなじだ。
そんなことを思い懐かしんでいるとかけた電話が繋がった。
「もしもし、僕だが、突然すまない。今、ちょっと良いか?」
「なんだい?君からの電話であればたとえ深夜であろうと3コール以内に出て、徹夜してでも話に付き合おう。」
「今は未だ昼なのに3コール目で出たと言うところから深夜に3コールは怪しくないか? そもそも僕はそんな迷惑なことする予定はない。」
彼は3コールの方は無視して、
「例え話さ。でも、いつでも電話をくれて良いからね? 無い時間を割いて君との話を最優先にするよ。」
「いつかけても迷惑だった⁉︎」
「それはさておき、今日は何の用だい? まさかとは思うけれど特に用もないのに電話をかけてくれたのかい? 僕にとってはそれはとても嬉しいことだけれども、君のことだ。万が一にもそんなことはないだろう?」
そうだった。忘れるところだった。正しくは忘れていた。談笑のために彼に電話をかけたのではないのだ。確かに彼との話は楽しいのだがそれ故に電話をかけづらい。以前、三日連続で電話で彼と談笑したことがある。その後の疲労感と電話代はご想像にお任せしよう。そんなことを思いながら僕は電話をかけた要件を彼に話した。
「なるほど。彼女が、ね。僕は君からの私用の電話が欲しいものだよ。用のない電話でも、たわいもない日常会話でも良い。君は僕と話していて楽しくないのかい?」
話が脱線している。
「お前と話していて楽しくない奴なんていないだろうし、少なくとも僕は楽しいよ。それで、何かそれっぽい話を聞かせてくれないか?」
彼は一呼吸置いてこう言った。
「良いよ。話してあげよう。恐らく彼女の求めているものとは違うだろうけどね。でも、僕にとってはそれなりに不思議な話さ。」
それなりにかよ。というツッコミは言わないでおいた。言ってしまえばまた話が脱線することは目に見えているからな。なにも言わなければ彼は気持ちよく話を進めてくれる。
「例えば君が未来を変える為に奮闘していたとしよう。でも、それを時間軸上の少し先、いわゆる未来から見れば、君の行動は過去の出来事に過ぎない。過去の出来事は、それこそ時間を無視できるような存在、例えば神とか、黒魔術とか、もしくはそれに準じる絶対的な力でも加わらない限り、変わらない。此処では面倒だし過去の出来事は不変のものとしよう。個人的に神とか黒魔術とかは、見たことないから信じてないしね。そんな絶対的な力なんてないのさ。」
彼は咳払いを一つ。
「話が逸れたね。とにかく、此処から先の未来から現在を見るとそれは過去となる。つまり君が未来を変える為に奮闘することは確定事項であり、過去であり、不変である。要するに、今この現在で君がどうするかは君の意思による決定のようでいて、そうではない。全て決まっていて、それをなぞっているに過ぎないんだ。って言う僕の仮説さ。」
お前の仮説かよ。というツッコミも入れなかった。
「それでも君は少しは共感したり考えたりしたんじゃないかな? それは僕の仮説が不思議な話として成り立っている、そういうことだろう?」
まあ、確かに。
彼はその話はそれで終わりらしかった。
その後いろいろと話した後、
「明日も電話してくれ」
と彼が言って電話終了。
僕は、その日のうちに、つまりは忘れてしまわないうちに彼女に話した。
「じゃあ、その話に反例を挙げてみよう。未来なんて存在しないんだ。今、僕たちが生きているこの時が最新。そう考えると、未来は変えられるということになる。ところで、君はどう思うんだい? 未来は変えられるのか、変えられないのか。」
僕に話が回ってくると思わなかったので、少し考える。
「未来があるのかないのか、過去を変えられるのかどうかは知らないし、僕には到底わからないが、“未来は変えられる”と思う。」
じゃないと、今の努力が報われないじゃないか。それなら何のための努力だというのだろうか? 世界がニートだらけになってしまう気がする。
「僕は、そう思う。」
なんの根拠も無いので彼女に反対意見を出させないための駄目押しの一言。彼女に通用するとは思ってないが。
「やっぱり君の目の付け所は面白いね。明日も期待してるよ。」
別に、僕が考えてわけでも何でもないのだが。
とにかく、明日も彼に電話することは確定だった。
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