DAY5 三世思想

「三世思想っていうのもまた不思議な話だよね?」

 また彼女がわけのわからないことを言っている、そう思ったのは僕だけではないだろう。

 今日は電源の入れていないテレビの前の席に座っている。一番広い部屋だ。僕は、特にすることもないがただ座っているのもなんとなく落ち着かないのでそこら辺の片付けを勝手にやっている。僕はその手を止めて彼女にこう言った。

「ちょっと待ってくれ。その三世思想とやらが不思議なのかどうか以前に、僕はそれを知らない。つまりお前の言っていることに共感も反論をあげることもできないのだ。」

「調べた訳でもないし、僕の覚え違いがあるかもしれないけど、“三世”とは前世・現世・来世のことで、前世で良い行いをしたから、今は人間の姿、現世で良いことをしたら来世が報われる、って思想のことだったと思うよ。」

 なんとなくは理解した、つもりだ。一回は聞いたことのありそうな話の1つだ。だが、そのどこが不思議なのだろうか。そもそも思想に対して不思議といいながら現実を突きつけるようなことをしてもいいものなのだろうか?

「大体分かった。それで? その三世思想のどこが不思議なんだ?」

「今自分が三つのうちどれを生きているのか、つまり今が前世なのか現世なのか来世なのか分からないじゃないか。」

 今、彼女が何を言いたかったのか分からないじゃないか。

「今生きているのが現世じゃないのか?」

「3セットで考えるんだよ?」

 このときの僕は彼女が何を言いたいのか、なんとなくはは分かっていた。しかし、下手にそんなことを言って、

「じゃあ説明してみてよ。」

 なんて言われても僕が困ってしまうぐらいに言葉になっていなかったので下手なことは言わなかった。

「今生きているここが三セットのうちどこかってことだよ。最初から人間だっただけで今は前世に当たるのかもしれない。はたまた今が来世なら最後なんだし頑張る必要は無いからね。詳しくは知らないから僕は君にしかこんな話はしないけれどね。」

 なるほど。僕が感じていた“何か”は言葉で表すとそう言った感じになるのか。

「確かに、生きている今が必ず現世ならば現世の無限ループだもんな。」

 あるかどうかもわからない来世のためにいつまでも頑張り続けるなんてごめんだもんな。

「ところでお前は仏教徒なのか?」

 三世思想はよく知らないが恐らくは仏教のものだろう。

「僕は見たこともないものを信じたりはしないよ。」



 僕は彼女の言ったことが正しいのか気になったので三世について簡単に調べてみた。それによると

 ・前世 - この世に生まれる前の世

 ・現世 - 現在の世

 ・来世 - 死後又は未来の世

 とある。

 転生した記憶が無い(当たり前なのかもしれないが)ので、彼女の言ったことは、少なくとも僕の中では否定のできないこととなったのだった。

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