1話 3682人 (1)
「……という夢を見たんですよ、雅先生!」
私は真剣に今日見た夢を話した。それは記憶を取り戻したいという気持ちの現れだった。
「ふーん」
「ふーん、じゃないですよ!」
「まあ夢っていうのは、個々の意識の影響によるものだから、記憶を取り戻す手掛かりになるかもしれないわね、うん」
私が半ギレしていたこともあり、雅先生は心理カウンセラーらしい言葉で話した。まあ、心理カウンセラーなんだけど……
「本当に一ヶ月毎に診察する意味があるんでしょうか……」
「あるある、定期的に自分が行っていることを振り返るのは大切なことよ」
先生は銀色のボールペンを回して間をおいてこう言った。
「そうそう、そういえば最近好きな人とかできた?」
「ふざけているんですか、怒りますよ」
「まあまあ、彼氏も友達もいないってこの前聞いたから……」
「友達はいます!親友と思える人がいないって言ったんですよ!」
「よく覚えてるじゃない、最近の記憶は大丈夫らしいわね」
「もう、からかわないでくださいよ」
雅先生はいい先生だ。包容力があるというか、家族のような雰囲気で私と接してくれる。
今日も私の悩みである記憶喪失について考えるのではなく、現在の生活についての話が多かった。それは、私に今という高校生活の時間を無駄にしてほしくないという彼女なりの思いやりなのだろう。
「雅先生、もう五時になりますよ」
「あら本当、雫ちゃんと話すといつも時間を忘れちゃうわ」
「じゃあ私はこれで」
そう言って部屋を後にした私は傘置きに手を伸ばし、少し濡れたオレンジ色の傘を手にとった。今日は朝から雨が降っていて、雨が地面に弾く音が室内からよく聞こえていた。
ABILITY 神楽 @kagura0480
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