第2話 海風と海の石

「このままじゃあまずいよなぁ…」


「でも、この時期にここらで捕れるもんなんて…」


 粗末な狭い小屋の中で、漁師が数人深刻な声色で何か話し合っている。ソウヘイと付き合いの長い村長、ハルキの父親や市場を取り仕切っている旦那やソウヘイの弟子たち。いったい何か起きたのだろうか、いつもは酒を酌み交わしながらたわいのない話をしている人達から、まったく違和感のある重苦しい雰囲気を感じる。


 突然背後から強い風が吹き、ナギサの部屋に積まれているガラクタの山を大きな音を立てて崩した。ナギサは驚いて身を起こし振り返った。


「おい、大丈夫かぁ?」


「あ、うん。大丈夫。」


 ソウヘイの脳天気な声が階下から聞こえてきたので、ナギサは慌てて口元で返事した。聞こえてるかどうかはわからないが、漁師たちは何事もなかったかのようにまた話し合いを再開した。


 ナギサは恐る恐る部屋に戻った。望遠鏡や、市場に足繁く通って根気よく集めた部品は壊れていないだろうか。冬の風に触れたのも相まってナギサはひやりとしたが、幸い全て無事だった。


「今度、片付けないといけないな。」


 床に散らばったガラクタを再び机の上に無造作に置き、全開の窓をカーテンを挟まないようにゆっくりと閉めていると、ふと視界の端に青く光るものを見た。

 石だ。ナギサはつまみ上げて窓に透かした。青と灰色がまだらになっていて、まるで海の中にいるような感覚を覚える不思議な石。この村の産物である灰簾石とかいう石の原石だろうか。しかしいったいどこから紛れ込んできたのだろうか。ソウヘイがこのようなものを持つような趣味ではないことを分かっていたので、ナギサは何も考えず机の上に雑に置いた。


 しばらく経って、下の話し声が無くなっている事に気付いた。今日は市場がやって来る日だ、ナギサはなけなしの小銭をポケットに入れて家を出た。


「あれ…」


 村の中心の広場で、ナギサは呆然と立ち尽くしていた。定期市が開かれているはずの広場はもぬけの殻だった。むしろ市場のない普段よりも人が少ない気がする。


 もしかしたら日にちを間違えたのかもしれない。引きこもりの生活をしているのだからそういうことも有り得る。そう思い踵を返そうとした瞬間だった。


「おい」


 聞き覚えのあるガラの悪い声がナギサの左肩を強く叩いた。振り返ると背の高い少年がナギサを睨みつけていた。

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