恋ニ狂ヒシ乙女ノ心
灯花
コヒニクルヒシヲトメノココロ
私はあなたが好きなのに。
あなたは私のことを好きじゃないの?
私にとってはあなたがすべて。
あなたにとって、私はどうでもいい存在なの?
私はこの世界のだれよりも、あなたのことを愛している。他人に誇れることなんてない私が、唯一胸を張って言えること。
あなたが愛おしい。
あなたのすべてが。
その指も、髪も、足も、口も、そのどれもが愛おしい。
でも
一番はやっぱりあなたの瞳。
鳶色の宝石は、いつもあなたの顔の真ん中で楽しそうに踊っている。キラキラときらめくその輝きは、何にも代えがたい至高の一品。
その輝きなら私は、いつまでも見つめることができる。光を失う最後の日まで。一緒にいて、いいよね。違う。私以外には見つめさせない。あなたの瞳は私のもの。もちろん、指だって、爪だって。まつ毛の一本に至るまで、あなたは私のもの。
あなたには私のすべてをあげる。だから私にはあなたのすべてを頂戴。
ねぇ、聞いて。
あなたの爪にはどんなに美しい貝殻もかなわない。
あなたの髪にはどんなに美しい絹糸もかなわない。
あなたの皮膚にはどんなに美しい織物もかなわない。
あなたの瞳にはどんなに美しい宝石もかなわない。
あなたの爪を一枚ずつ集めて瓶に詰めて、
あなたの髪の一本ずつ集めて糸を紡いで、
あなたの皮膚できれいなお洋服を作って、
あなたの瞳で素敵な指輪を作りましょう。
あら。
おんなじ体がもう一つ必要ね。元のあなたも大好きだったもの。
でも今のあなたもとっても素敵。
あなたの血はバラのような真紅ね。いいえ、バラなんかよりずっと美しい。これも瓶に詰めましょう。そのままにしておいたら黒ずんでしまうもの。
すっかりあなたの体を見尽くした気がするけれど、まだ見ていないところがあったわ。
あなたの、骨。
包丁で肉を削ぎ落そうと思ったけど、なかなかうまくいかないの。お鍋の中で煮てみましょうか。
愛しいあなたの体を抱えて、静かにお湯の中に沈ませる。私の服にあなたの血が付いたけれど、全然嫌じゃないわ。だってあなたの血だもの。
手についた血を舌でなめてみる。鉄みたいな味。でも、脳の奥までじんわりと染み渡るような不思議な感じがした。
お鍋の中のあなたは、時折浮かんでくる気泡に揺られながら、静かに底のほうに横たわっていた。
お鍋のお湯が赤ワインのように染まったところで、ゆっくり慎重にあなたを引き上げる。大方の肉は落ちて、白いあなたが顔を見せていた。
引き上げたばかりのあなたは完全な真っ白ではなくて、ところどころ染みがついていたけれど、室内灯の明かりを受けててらてら光る様はとても艶めかしかった。
最後にあなたの頭蓋骨を取り出す。落ち窪んだ双の眼窩は虚ろに私を見つめている。吸い込まれるような深い闇だけが、そこにはあった。
あなたの丁度額のあたりに軽く口づけをする。血と肉と、それからあとはよくわからない味が、私の唇に残った。
愛している。愛している。愛している。愛している。愛している。愛している。愛している。
私がどんなにそう言っても、あなたは決して、口を開かない。ただじっと、私を見つめているだけ。
私は、物言わぬ愛し人を胸に抱いて布団に潜り込む。
夜は嫌いだ。すべてが止まり、静寂に包まれる。
私の体温で少しずつ温まってきた毛布でさえ、夜の孤独は癒せない。
でもね、今日はあなたがいるの。優しくなでると硬く、少し冷たい感触が指に残る。すべてが不確かなこの世界の中で、唯一私を安心させてくれる。
ぎゅっとあなたを抱きしめなおして、目を閉じる。いつもはなかなか寝付けないのに、今日はすぐに睡魔の波が押し寄せてきた。
甘い微睡みの中であなたに出会う。何か言っているけれど、良く聞こえない。
だから、私が精一杯叫ぶ。
愛している。
恋ニ狂ヒシ乙女ノ心 灯花 @Amamiya490
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