第48話 稲妻


「なあ、アルベールのお兄さんなら物理以外も出来るんじゃ……?」


 光は伊藤に問う。光に鋭い目を向けた伊藤は口を開いた。


「やったさ。ギルのあらゆる魔法を。それでもあいつにダメージなんか与えられねえんだよ」


 返ってきた伊藤の言葉で、魔法も無効なのではないかと考えてしまう。光には防御のシールドと、電撃の魔法しか使ったことがない。この二つでどうやって葵を救えばいいのがわからない。

 アルベールも同じことを考えていたようで、口を閉ざしたままだった。


「俺が足止めする。その間に手を尽くせ」


 仁村はそう言って両手を葵の方へ突き出し、手を握る。すると葵はピクリとも動かなくなった。


「切り込む」


「やるぞ!」


 健と湊が動けない葵に切りかかる。しかし、葵の周りには見えない壁があるようで、刃が届かない。


「ギル!焼き尽くせ!」


 伊藤の声に応じ、葵の周りの壁に沿って炎が燃え上がる。健と湊は瞬時に離れるので被害に遭うことはない。燃えさかる火によって、葵の姿は見えなくなった。


「ダメです!効いていません!」


 炎が消えたとき、葵は何も変わらず立っていた。どうすることも出来ない。


「あの壁をどうにかしないと……」


 打つ手がなく、立ち尽くすしかできない光。

 攻撃をする光たちをだた見ていたクラシスは、何か思い出したように声を出した。


「壁……壁?壁だ!竜之介!俺達なら壊せるかもしれねえ!」


「俺は戦わねえ!」


「そんなこと言ってる場合か!?みんな限界が近い。俺達だけ無傷で逃げるか?」


 竜之介に声を荒げるクラシス。


「それは……男じゃねえな」


「ああ。何もせずに逃げるなんて男じゃねえよ!」


 竜之介とクラシスは立ち上がり、胸の前で拳を合わせた。


「今なら。今なら竜之介にフルパワー貸せそうだぜ」


 クラシスはそう言うと、竜之介の胸に向かって飛び跳ねた。すると竜之介の姿が眩しい光に包まれる。その光はすぐに消え、現れた竜之介の姿が変わっていた。


 顔を守る黒いフェイスガード。顔の両側と目元、鼻を守るようになっている。ラフな私服の上に、膝までの銀のプロテクター、手には鋭い爪を持った黒いガントレットを身につけていた。


「お?お?」


 竜之介はよくわかっていないようである。自分の装備を触っている。


「俺と同じだけだ」


 健は竜之介に向かって言うと、竜之介はハッとする。健はイブキを身にまとっているのだが、竜之介とクラシスも同様のようだ。


「クラシスのことがよくわかるぜ。男ならこれしかないよな!」


 仁村が葵を止めているところへ、葵に向かい走り出す。拳をひいて、勢いのままシールドにぶつけた。


「シールド……ブレイク!!」


 健の刀も、伊藤の炎でもびくともしなかったシールドがガラスのように砕けた。共に竜之介の拳からは血が出ている。


「攻め入るしかねえ」


 健も葵に向かって切り込む。すると葵の目つきが変わった。シールドが破られることは無いと思っていたのに破られたため、焦ったのだろう。目を見開いていたが、健の刀は再びシールドで防がれた様に見えた。しかし、先ほどとは異なり、シールドはすぐに砕け散る。葵の肩にうっすら切り傷がついた。



「光君……このまま切ってしまったら、人殺しになってしまいます。攻撃は通ります。これでは彼女が死んでしまう」


「アルベール……お願いだ。誰も死なないで助けたいんだ。俺に力を貸してほしい」


「僕らも、クラシスたちのように。今の強い気持ちの君になら力をお貸しできそうです」


 アルベールが微笑むと、光の目の前は真っ白になった。目を閉じると、遠くからアルベールの声が聞こえる。



 ――僕たちなら、彼女を救うこともできます。


 ――僕の電気の刃で……彼女の中の管理者を追い出しましょう。



 ゆっくりと瞳を開く。

 体が軽く感じる。それだけでなく、体中に電気を身にまとっている。光が痺れることはなく、不思議と心地よい。

 これからどうしたらいいか、すぐわかった。



 手を下に向けると、バチバチと電気が集まり、剣を形作った。それを握る。剣など持ったこともなかったが、どう振ればいいのかわかっていた。おそらくアルベールの感覚なのだろう。



「俺が切る。健、援護」


「お、おう……」


 今まで光はどちらかというと守られる側であった。健はその光が切ると言うのだから驚いていた。


「もう限界……」


 仁村が膝から崩れた。

 すると葵が自由に動けるようになる。葵が手を下から上に上げると、地面がそれに合わせて盛り上がる。


「くそっ……燃やしてやる……」


 バランスを崩した伊藤だったが、再び葵に炎を向ける。今回はシールドが無いようで、葵の動きが止まった。

 そこへ炎を恐れず健が切り込む。葵は切られぬように、健が向かってきた方向にのみシールドをはった。葵は健に集中している。

 光は葵の死角から電気の剣で葵の胸を突き刺した。





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