第47話 多人数の意見に


「うがあああ!俺も!俺も行く!危ないと思ったら止める!光は思いきった行動しすぎるから!」


 全員の意見が出てから、竜之介が叫んだ。

 突然の大声に全員の目を丸くして注目を集めた。


「じゃあ行こっか」


 光はまだ痺れが完全にはなくなっていない竜之介に肩を貸して立ち上がらせる。身長差があることもあって、歩きにくそうだった。


「俺らどこにあいつらが行ったのか探してくる」


 湊はそう言って、大きく飛び跳ねた。

 伊藤と仁村が去ってから時間が経っている。葵を追っているのは間違いないが、どこにいるかわからない。全員が闇雲に歩き回るよりも湊が探しに行く方が早いだろう。


「俺も行ってくる」


 健もイブキに声をかけ、和服の戦闘服へと身を包む。そして湊ど同様に飛び跳ねていった。


「弟に好かれてんな」


 残された光と竜之介は少しずつ歩いて進む。

 健は光を毛嫌いしていると思っていたが、そうではないことを知った。もしアルベール達がいなければ、ずっと嫌われていると思って過ごしていただろう。


「そうみたい」


「前に葵が弟について聞いてただろ?あの時の顔と今の顔、全然違うぞ。いい兄弟だな」


 光の顔は明るかった。

 竜之介に言われてその通りかもしれないと感じた光は、くしゃっと笑った。





「ダメだ、こっちにはいねえ」


 湊が先に光たちに合流した。

 仁村が作り出した歪みの世界。湊がどこを探しに行ったかわからないが、広い範囲を探しに行ったのだろう。少し息が荒くなっている。


「あとは健頼みか……」




 湊が合流してから十分ほど。健が呼吸を乱して飛んできた。


「いたっ……もうバトってる」


「どっち?」


「ここからかなり先……もじゃもじゃに話したら、もじゃもじゃがこっちに誘導してくれるって」


 もじゃもじゃとは仁村のことだろう。

 いつの間にか健は仁村と協力できるほどの仲になっていたのかわからないが、ここは仁村に感謝した。


「ってか……管理者の方が押してた……もじゃもじゃもピンチだから人手がほしい、多分」


 伊藤と仁村は強いはずだ。光たちよりも。

 葵は先ほど逃げたが、それで体勢を整えたのか、葵が優勢らしい。健の顔が青ざめていることから、かなり葵が押してるのかもしれない。



「……っ!来る!」


 健が何かに反応した。

 するとその直後、大きな爆発音が辺り一帯に響き渡った。それは一度だけではなくて、何度も何度も聞こえる。少しずつ近づいているようだ。



 繰り返される爆発音。

 その音と共に人が走って来た。伊藤と仁村だ。

 伊藤は腕を押さえ、足を引きずっているように見える。

 光たちの後ろに二人は走り、止まった。



「あいつに足止めしようとしたが、振り切られた。スタンツィの魔法はほとんど意味がねえ」


 仁村は苦しい顔をして話す。

 よく見ると仁村も傷だらけだ。顔や腕、あしにも血がにじんでいる。


 そしてすぐ、爆風の中をスタスタと葵が歩いてきた。

 その顔はとても暗く、うつむいている。怪我こそしていないが、いつもの葵とは違い、元気もない。


「一旦ひいて、日を改めよう、な」


「んなことやってられるか。今ここでぶっ潰す……」


 仁村の提案に伊藤は反対し、傷口を押さえながらよろよろと葵の方へ顔を向ける。




「葵……」


 竜之介は葵の姿に言葉が出ないようだ。

 葵は立ち止まったが、声を出すことはない。


 沈黙が続いた時、光の耳に声が聞こえた。



 ――……か。


 ――誰……か。


 女の子の声だ。声を聞き取ろうとするが、ハッキリとは聞き取れない。

 聴覚に集中するため、光は目を閉じた。



 ――たすけ、て……。


 ――誰か、助けて!



 ハッキリ聞こえた。

 女の子の助けを求める声だ。辺りを見るが、女の子は葵しかいない。

 光が葵を見た。暗く沈んだ表情。しかし、その頬に一筋の涙が見えた。



「どうしました、光君?」


 葵の涙に驚いていた光を見て、アルベールが光に聞いた。アルベールには声が聞こえてないらしい。



「今……助けてって。あれは葵の声だと思う……」


「馬鹿かっ!あいつが助けてなんて言うわけねぇだろ?」


 伊藤は光に強く言う。しかし光は確信していた。

 葵が助けを求めているのだと。


「光君、それは……事実のようですね。貴方の心が僕には伝わります。嘘などない優しい心。……わかりました。僕らで何かできないかやってみましょう、ね?」


 アルベールは光に微笑んだ。

 アルベールは光を信じてくれた。


「ああ、やろう」


「ちょっと待て!俺が止めるって言ってただろ!?危ねえ!」


 竜之介が決意に満ちた光を突き放して言う。

 バランスを崩した光だが、倒れることなく葵を見つめる。


「竜之介……葵、助けを求めてるんだ。葵は葵。葵は助けて、管理者だけ狙う!」


「そんなこと言って策でもあるのか?無謀だ!」


 竜之介の言うことはもっともだ。何か思いついた訳じゃないし、どうするかなんて考えてない。それを考えるよりも先に、助けなくちゃいけないという重いが先走っている。



「言っとくが、物理系は無効だ。あいつは物理をはじく」


「なっ……それじゃ俺らダメじゃね?」


 仁村の情報を聞いていた湊は自分が役に立たないことを理解してしまった。

 湊の蹴りは無効、健の刀も無効となるだろう。


 立っているのもやっとな伊藤。すでに傷だらけの仁村、うまく動けない竜之介、攻撃が無効となってしまう健と湊。

 残された光にしか、変えることができないようだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る