第45話 元凶


 竜之介に銃口を向けた伊藤は引き金を引いた。


「やめろっ!」


 竜之介の身を案じた光が叫んだ。

 放たれた弾は竜之介の頭に当たった。

 しかし弾は貫通するのではなく、床に落ちた。


「あん?」


 伊藤が竜之介を見る。

 光も竜之介の安全を確認する。

 竜之介はニヤリと笑った。


「俺だってな!鍛えてんだよ!」


 竜之介の額は鉱物のようにガタガタしている。どうやらそれで銃を防いだようだ。フゥと光は息を吐いて安心した。


「お前は自己強化型か。面倒だ。ギル」


 ギルと呼ばれた男は伊藤に白い光を放つ弓を渡す。それを受け取り、弦を引く。矢を受けとってはいなかったのに、引いたときに光が集まり矢を形成していく。


「管理者ごと消えろ」


「やらせるかっ!」


 伊藤が矢を放つよりも先に竜之介が地面に叩き込む。地面にヒビが入り崩れていく。バランスを崩した伊藤から放たれた矢は的外れな方向へと飛んでいった。


「どうだ!」


「すごいです、竜之介先輩!」


 竜之介は満足げだ。葵も立ち上がってパチパチと手を叩いている。

 光は矢を外した伊藤が悔しがるどころか、不気味な笑みを浮かべていることに気づいた。変だと思い、矢がどこへいったか確認しようと竜之介から目を離した。その瞬間、飛んでいった矢がカーブを描いて戻り、竜之介の背中に刺さった。


「竜之介!っく……」


 竜之介は前方へと倒れた。クラシスが矢を抜こうとする。

 竜之介に駆け寄ろうとするが、足が痛んで力が入らない。


「ざまあない!痺れちゃうでしょう?とっておきの薬付きだ。早く解毒しないと呼吸まできなくなるよ?矢を抜いても毒は抜けない」


「しっかりしろ、竜之介」


「はぁはぁはぁはぁ……止まれる、かよ……」


 クラシスが矢を抜くが、竜之介の呼吸は荒く、起き上がることさえ叶わない。 


「邪魔はいなくなった。これで管理者、お前は終わりだ」


「や、やめ……ろ」


 竜之介が弱々しく声を出す。しかし伊藤はそんな竜之介に耳を貸すこともなく、葵をにらみつけた。


「させませんわ!」


 葵の前に飛び出したのはヒリスだった。

 いつものひらひらしたスカートはところどころ破れている。


「ヒリス、だめっ!」


 よろめくヒリスを抱き上げる葵。その光景に伊藤は冷めた視線を送っていた。


「つまんねぇんだよ。一人芝居してんじゃねえ。調べてあるんだよ。田島葵なんて人間は存在しない!管理者のお前が作り出した人物だ」


 伊藤の言葉で葵の表情が一変した。

 怯えていた顔から、無表情になり、そして不気味な笑みを浮かべる。


「あ、葵……?」


 光が呼びかける。しかし葵の様子が元に戻ることはなかった。 


「あーあ。やんなっちゃう。ずっと隠せて来たのに、あんたにばれるなんて。変な茶番までやってきたのになあ」


 人形のように動かなくなったヒリスを掴み、ゆっくり立ち上がった葵は普段とは違う口調で話し始めた。


「先輩たち、もっとしっかりしてくれなきゃー」


「わかるでしょう、アルベール。これが管理者。全ての元凶」


 伊藤の後ろからアルベールに話しかける男。アルベールは男から目を話さなかった。


「やっぱり貴方は……でも何で……?」


 アルベールの頭から疑問が解けない。

 それは何故生きているのか、何をしてるのか。何もアルベールにはわからなかった。


「それは……後でお話しましょう。そこの彼にも、ね」


 彼と指をさしたのはクラシスだった。

 クラシスは竜之介に呼びかけていて気づいてない。



 葵と伊藤が立ってにらみ合っていると、伊藤の奥からざくざくと歩く音が聞こえた。

 やってきたのは仁村。そして、健と湊だった。


「たけ、る?」


 手錠をかけられた健を見て目を見開く光。

 健も出血している光を見て目を見開いた。


「おい、てめえ。どういうことだ?」


 健が仁村をにらみつける。

 仁村もまさか怪我しているとは思っていなかったようで、冷や汗が出ていた。


「海、どういうことだ?」


「ゆっきー。化けの皮、はげたよ」


「いや、お前の化けの皮も剥がれてる。まあいい、こっちの協力は得た」


 伊藤と仁村がコソコソ話し合う。健は今すぐにでも仁村をボコボコに殴りたかったが、堪えた。


「竜之介!しっかりしろ、竜之介!」


 クラシスが竜之介に呼びかけている。しかし、竜之介の反応がない。


「竜之介!」


 光は片足は使えないが、腕で地面を這って竜之介に近寄って呼びかける。

 竜之介の目は虚ろだ。



「あーあ。死んじゃうよ、彼。せっかくの同盟、壊れちゃうよ?」


 伊藤はふざけた声で葵に話すが、葵の反応は薄い。


「壊れるなら壊れちゃえばいいわ。もう使い物にならないみたいだし」


「え、葵……?」


 葵の口から出た言葉。

 信じられない言葉に葵に目をやる。葵はゴミを見るような目で竜之介を見ていた。


「そんなっ……」


 葵はゆっくりと後ろに下がる。すると少しずつ霧が葵を包む。


「あんたら切り込め!」


 仁村が声を荒げると健と湊が走り出した。手錠を強引に引っ張り外す。

 健は刀を、湊は鋭い獣の爪で葵の両側から切り込んだ。


 ガキンっと金属がぶつかる音がする。

 霧が晴れた時、葵の姿はなく、刀と爪がぶつかり合っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る