第44話 裏の裏の真実


「ねえヴェルート、何でこの争いがあるのだと思う?」


 契約者自慢から急に真剣になった。

 スタンツィの口は笑っているが、目が笑っていない。


「わかんないよう。パパも言ってなかったもん」


「じゃあそれを調べようとした?」


「……してない」


「僕はね、調べたの。何のためにわざわざ別の世界に行って戦うのか!そうしたらね、わかっちゃった。僕たちの世界が変なことに」


 スタンツィはハキハキと話し続ける。

 その間、健と湊の顔に落書きが増えていく。


「知ってるでしょ?管理者がこの争いを管理してるの。管理者にとってこれはゲーム……この争いはただの暇つぶしなんだ」 


 スタンツィの話を静かに聞く。


「それじゃ僕たちは何なんだって!駒にしかならないなんてうんざり!だから早く終わらせないと。二度とこんなゲームが起きないように」


「待って下さい」


 話の流れを止めたのはイブキだ。

 健の肩から声を出す。健からはイブキの顔を確認できないが、ふざけた様子ではなさそうだ。


「管理者を倒せばゲームが終わることは承知してます。しかし、それで今後同じような争いが起きないとは言えないのでは?現に過去管理者を倒していても、今回また争いが起きてます」


「うふふ!あったまいい!ヴェルートとは大違い!」


「むうううう!」


 無邪気に笑うスタンツィに、顔を膨らませて怒るヴェルート。どちらも子どもにしか見えない反応だ。

 引き続きスタンツィが答えるのかと思ったが、続きを話したのは仁村だった。


「それは管理者の人形だけしか壊してないから。本体を壊さないと全部が終わらない」


「お前何言ってんの?」


 相変わらず健の態度。一応仁村は健の先輩にたるのだが、気にしておらず、仁村も気にしていない。


「お前の兄貴……早瀬光と新島竜之介の学校。あそこに『田島葵』という名前の人物は教師、生徒、事務員、関係者家族にも存在しない」


「ん?誰だ、それ」


 健に強引につれてこられた湊は葵のことを知らない。湊は健と仁村に目をやる。健は何となく理解したような顔をしてた。


「葵がピンチとか言ってたが、そいつがその管理者ってことか……?」


 健の言葉に仁村は静かにうなずいた。


「なるほどねえ。クラシスちゃんたち、自分たちの居場所を知らせないために、その子と契約した王からスキルを買ったって言ってたけど、その子が管理者ならスキルを売ることもできそうねえ」


 イブキはかなり納得したようだった。

 しばらく解決しなかったスキルの購入について。管理者が全てを操作できるのだとしたら、スキルの売買というチートも可能なのだろう。



「俺らはさ、早くスタンツィ達の世界を平和にさせたい訳。そのために管理者をやる。協力、してくれるでしょ?」


 ペンから短剣に持ち替え、剣先を二人に向ける。ゴクリと唾を飲んだ健と湊。争いを終えるには管理者を倒さなければならない。それはわかった。仁村の意思は間違っていないと思う。しかし、仁村につけば兄と対立するだろう。それは困る。

 兄を敬愛している健は、兄を裏切ることはできない。だが、管理者を倒せば兄は守られる。どちらの選択も選べなかった。


「協力、してくれないの?」


 早くしろと剣先を喉に近づけていく。


「弟くんよ、俺は早くヴェルートたちに平和になってもらいてえ。お前らを裏切るとかじゃなくてだな……んーと、なんと言えばいいのか?」


 湊は斜め上を向いて言葉をつまらせる。

 健はわかっている。裏切るとかの話ではないことも。多くの人が平和になる方法を。


「とりあえず、俺は!俺はあんたに協力する」


 湊は仁村に言い放った。

 すると湊の体の動きが自由になる。


「お前は?」


 湊に向けていた剣先も健に向けた。


「俺は……兄貴が傷つかないなら協力、する」


「男に二言はないな?」


「ああ」



 健の体にも自由が戻る。

 この選択が正しいかと言われるとわからない。だけどこれしかなかった。

 健は必死に自分を納得させる。そんな健を心配そうな顔でイブキは見ていた。



「それじゃこれ、つけて」 


 そう言って仁村は手錠を投げ渡した。

 慌てて受けとったが、理解が出来ずに困惑する二人。


「それ、少し力入れれば取れるから。俺が合図したら管理者を切り裂け。あんたらの武器なら余裕だろ?もし動けなくても俺が動かしてやる」


 健は素直に手錠を自分の手にかけた。それを見た湊も同じようにする。

 それを確認した仁村は歩き始めたので、健たちもついていった。





 *


 同時刻、アルベールとクラシスが目にしたのは長い白い髪を一つにまとめた男。

 光と竜之介は何も感じなかったが、アルベールの目がにじむ。


「兄さん……?」


 アルベールからこぼれた言葉。

 それでアルベールから聞いていた話を思い出す。アルベールの魔法で亡くなった兄のギルディールを。

 今のアルベールはそんな兄の見た目を真似している。白髪に黄金の瞳。まさに目の前にいる男と当てはまる。ただ、アルベールが数十センチほどの大きさなのに、向こうは伊藤とさほど変わらない大きさだ。光にはよくわからなかった。


「ああ、そうだったな。あいつは狙わないようにだった。なら他のやつはいいよなあ?」


 銃口は光から竜之介と葵に向けられた。

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