第41話 緊急事態
後日、湊から連絡が来た。
健が仁村と接触し、確認が出来たようだ。
その結果、やはりヴェルートの兄であることがわかった。
「死んだはずの人間が生きていた……?」
信じられない顔をしたアルベールは考え込んだ。なぜ生きているのか、何がしたいのかわからない。
「仁村もだけど、伊藤も気になる。あいつも契約者だろ?肝心な王は確認できてないって」
健からも連絡が来ていた。同じ家にいながら、スマートフォンで連絡を取り合っている。その方が気が楽という健の意見を受けてのことだった。なので健が部屋に来ることはないが、度々イブキが連絡係として来る。今日もイブキが来ている。
「死者は死者でなかった。死んでいるという思い込み……契約者とどんな繋がりがあるのでしょう」
「あの、イブキは健のとこに行かなくていいの?」
自分の家のようにくつろぎ、長く居座るイブキに光は問いかけた。イブキはちらっと光の顔を見て、にこやかに答える。
「健はお勉強中です。夏休みの課題が山盛りだそうなので、こまめにやっています。その間暇なので、こちらにやってきました」
「ここは暇つぶしの場所か……あ、宿題あったな。あとでいっか」
既に夏休みに入っている。
光にも学校から課題が出されている。英語、数学、現代文に化学と日本史。それぞれの問題集を終わらせるようにという課題だ。光の学校はバカ校のため、真面目にやる人は少ない。しかしこれをしっかりやって提出すれば、テストに加点されるため、成績に大きく影響する。テストでぱっとした成績が出ない光にとって、大きなチャンスだった。
「今の国はですね……」
「それはそうだけど、こっちは……」
アルベールとイブキが二人で真剣に話し始めた。難しいことは光にはわからない。口を挟まず、ベッドで漫画を読み始めた。
「光君!連絡です!」
快適な温度に設定した部屋で、いつの間にか眠ってしまった。アルベールの声に重い瞼を開ける。
「誰から……?」
「葵さんです。メッセージじゃなくて、お電話です」
アルベールがスマートフォンを持って、机からフワフワと飛んで持ってきてくれた。
寝ぼけた頭で通話ボタンを押して、耳に当てた。
「先輩、助けてっ!」
葵の切迫した声で意識はハッキリした。
起き上がってスピーカーボタンを押し、部屋にいるアルベールとイブキにも聞こえるようにする。
「どうしたんだ?」
「はぁ、はぁ……今、追われてて。契約者に気づかれてしまって……」
走っているようだ。呼吸が荒く、バタバタと足音のような音がする。
「今どこ?」
「えっと……今、駅の方の廃屋から逃げてきて。駅の方に向かってます。でも、いくら走っても駅に着かなくて!」
「わかった。竜之介にも連絡してそっちに向かうよ。一度電話切るね?」
通話を終了する。急いでクラシスに電話をかけながら着替える。
「健に伝えてきます」
イブキは窓から出ていった。健の部屋とは隣り合っている。少しジャンプすれば健の部屋に着く。
竜之介には数回のコールで繋がった。
「竜之介?葵が追われてるって。場所は駅の廃屋らへんだから、もしかしたら生徒会が噛んでるかも」
「葵が!?すぐ駅に行くわ!」
竜之介は物わかりがよく、意図をくんだようでブチッと通話を終了した。
光はアルベールを肩に、部屋を飛び出した。
まだ昼間。この時間に家を出ても母に何も言われることはなかった。
自転車に乗ろうとしていた時に、健も家から出てきた。
「俺も行く」
健は光の自転車の荷台に乗った。健には自転車がないのが理由だろう。
光は仕方ないと自転車をこぎ出したが、すぐにバランスを崩して勧めない。
すると、健は光をどかし、自分がハンドルを握った。
「後ろ乗って。俺が漕ぐ」
「うっ、ごめん……」
苦い顔をした光だったが、健に任せて駅へと向かった。
太陽が二人を燃やすように照りつける。
ただ座っているだけの光は暑さを風で少しだけ緩和されていたが、立って自転車を漕ぎ進める健は汗だくだった。
幸いなことに警察とすれ違うこともなかったため、自転車の二人乗りで捕まることはなかった。
駅に向かっているはずだったが、湊のカフェの前で自転車を止める。
健がおもむろにどこかに電話をかけ始めた。
「お前、今すぐ出てこい。ちっこいのも連れて。はい、あと五秒。ごー、よーん、さーん……」
健がカウントを始めてすぐにバタバタと音が聞こえた。そしてガチャっとカフェの扉が開く。デニムパンツに謎のタワーが書かれた黒いシャツを着た湊が急いで出てきた。
「ついてきて」
健はそれだけ言うとまた自転車を漕ぐ。
「早く!何かわかるかもしれないんで!」
光が湊に言う。湊は考えるのを諦めたのか猛スピードで走り始めた。
駅前の駐輪場に自転車を止めてすぐ、竜之介も合流した。竜之介は湊のシャツを見るなり、そのデザインに首をかしげていた。
「俺と竜之介が前に廃屋に行ったことあるんだ。そこで、仁村達と話し合った。葵は廃屋って言ったから、この辺に葵はいると思う。あの廃屋、仁村達が使ってる場所だし、何かありそうで……ごめん、湊」
「ぜえ、ぜえ……い、いいって……。弟さんの言うことは絶対だし……」
息を切らしながら湊は話す。
わずかな期間に何があったのか、湊は健に逆らえないようだ。
「葵に連絡つかないし……とりあえず廃屋の方に行ってみよう」
光は葵に電話をかけながら廃屋のある方向へと進んでいった。
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