第40話 カフェ
健、竜之介の都合を聞いて予定を合わせて指定されたカフェにやってきた。店内に入るなり、光たちの姿を見つけた湊はエプロン姿でカウンターから手を振った。
ここのカフェで働いているようだ。あまり客は来ていないようで、空席だらけだ。いや、客が一人もいない。湊の前のカウンターに光、竜之介、健の順で並んで座った。
「コーヒーでいいか?」
湊の問いにうなずく。湊はテキパキと作り始めた。
「にしてもカフェに呼ぶってそういうことかよ。ここで話しててもいいのか?」
「大丈夫。人来ないから。今日休みにしたし」
「いいのかよ?店長に怒られるんじゃ?」
「いーのいーの。ここ、俺んちだし。親父は旅行中」
竜之介の質問に手を動かしながら湊は答えた。
「はいよ」
出されたのはとてもよい香りのコーヒー。そして小さなケーキ。頼んでいないケーキ。湊を見ると疑問を理解したのか答えた。
「コーヒーとケーキはお詫びの品だ。召し上がれ」
なるほどそういうことか。
謝罪のために集めたのだとは思っていたが、デザート付きとは。一口ケーキを口に含むと、甘い味が広がった。
「王様達にもどーぞ」
湊は別の皿にさらに小さいケーキをのせて出した。今まで肩の上やポケットの中にいたアルベール達がゴソゴソと出てきて、ケーキに手をつけた。
「美味しいでしょ?うちの母さんの手作り」
コーヒーの苦さをケーキが緩和してくれる。
甘いものは好きではないけれど、ここのコーヒーとケーキの組み合わせはすごく美味しかった。
「攻撃してごめんね」
湊のエプロンのポケットから顔を出したヴェルートが、申し訳ない顔で謝った。
そうだ、そのことも含めて話に来たのだったと思い出す。
「俺は許していいと思うけど、確認したいことがある」
食べる手を止めて、湊を見た。
まだ竜之介には話していないが、健には伝えてある。竜之介も手を止めて何を言い出すのかと光を見た。
「どんなこと?」
「俺達が見たやつが、本当に兄なのかを確かめたい。あの人達はあの人達で探ってるみたいだったから、もしかしたら何かわかるかもしれないし」
「確認って……俺はそいつを知らないし。どうやって?」
「それは健が上手くやってくれるって」
湊は健を見た。健はケーキを食べきり、コーヒーを飲んでいた。カップを置いて、口を開く。
「で、やるの?やらないの?」
健の冷たい目が湊にささる。数日前の慌てた健と大違いだ。
「うっ……」
「僕は確認したい!お兄ちゃんなのか。事実を知りたい!いいでしょ、みっちゃん!」
「ヴェルートがいいなら……」
怖じ気づく湊。ヴェルートは飛び出して健の前に立った。
「よろしくね、狐さん!」
ヴェルートはまるで犬のようだ。相変わらずあだ名呼びであるが、気にしない。この件は二人に任せることにする。大まかな方法は健から聞いている。生徒会に勧誘されていることを利用して、話を聞きたいと呼び出して確認する。その際にここのカフェを指定すれば怪しまれることなく確認できるというわけだ。
「なあ、クラシスの話もいいか?」
静かに聞いていたが、食器の音をガチャガチャ立てていた竜之介。クラシスと共に真剣な顔をしている。
「私が言ったこと、調べたのかしら?」
イブキがクラシスに問う。イブキはふざけた対応をしていないことから、真面目な話になるだろう。
「ねえねえ、狐さん。どういうこと?」
ヴェルートはどうやら王と契約者二人合わせてのあだ名をつけるようだ。イブキと健は狐さんとなった。
「それはね、貴方のお兄さんらしい人が調べていることよ」
ヴェルートはあまり理解していないようだったが、クラシスは話し始める。
「言われたとおり、過去の争いについて調べた。そしたら一度だけ、管理者らしい記録があった」
「貴方はそれを読んでなかったの?」
「その記録した本の表紙を見て思い出したよ。これを読んでまとめろって言われたとき嫌で、その時たまたま来ていた……アルベールの兄貴に変わりにまとめてもらったんだ」
「兄が……?」
クラシスの話に突然アルベールの兄が出てきた。驚いたアルベールは声をあげるが、クラシスは話を続けた。
「貴方は読まずに、彼のお兄さんが読んだのね。なら、お兄さんは管理者について知っていたことになるわね。どんなことが書いてあったの?」
「管理者は世界全体を見て管理する。管理者を殺した時点で、争いは終わる。管理者は他の王とは絶対に異なるものを持っている。一年間生き残った管理者は、後継者に受け継がれる。それだけしかなかった」
アルベールとイブキは腕を組んで考え始めた。よくわかっていない光は湊にコーヒーのおかわりを頼んだ。
「その情報だけで管理者を探すなんて、無謀なことですね。目星はついていると言ってましたが、確証を得るのに時間がかかっているのかも……」
「彼らが私達を疑っていることも考えられます。契約者に憑依することは、人と異なることに当てはまるわ」
イブキと健がうなずく。
湊は新しくコーヒーを光へ出した。口に含むと味が違う気がした。
「あと、俺の国の中に出来た別の国……少しだけ中の人を確認できたんだが、どっかで見たことあるんだよ」
以前から気になっていた問題。クラシスの記憶だけが頼りだ。
「クラシスちゃんには続けて調べてもらうわ。私達は私達でやって知らせるわ。仮の同盟みたいなところね。そろそろ帰りましょ、健」
「わかった。ごちです」
健はコーヒーのお礼を言って店から出て行った。
「なあ、湊って何歳?」
竜之介が問いかけた。同じぐらいだと思っていたので、何も気にしてこなかった。
「ん?俺、19。大学生」
「え?同じぐらいかと……すんません」
「気にすんな!敬語なんていいから、いいから!」
少し年上の湊に敬語は使ってこなかった。今更使えと言われても難しいだろうが、本人が敬語じゃなくていいと言うのだからこのままの言葉遣いでいいだろう。
コーヒーだけじゃなく、ケーキもおかわりしてから帰路についた。
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