第37話 見えた本性
「買ってきたぜ、水。アイスも買ってきた」
あの長い階段を往復してコンビニへ行ってきたようだ。戻ってきた竜之介は汗だくだった。
コンビニの袋からペットボトルの水を取り出して健の頭の横に置いた。光にも買っててくれたようで同じ水を手渡した。
光はゆっくりと健に手を貸して体を起こした。そしてゆっくりと水を口に含んだ。
竜之介はあぐらをかいて座り、氷のアイスを取り出してバクバクと食べ始めた。
「クラシスちゃんも大きくなって……随分立派になったこと」
イブキが竜之介の頭上のクラシスに顔を向ける。クラシスはすぐに頭から降りて竜之介の後ろに隠れた。
「イブキ、お前素が出てきてるぞ」
「あらやだ」
慌てて口を押さえるイブキ。健とクラシス以外はきょとんとしていた。
「その話し方が本性」
水をゴクゴクと飲み、健がポツリと言った。
イブキは口元を隠したままこちらを見ていた。
「オカマというかおばさん化が進行してる」
「うふ」
健の言葉にイブキはウインクした。
クラシスは相変わらず出てこない。
「クラシスちゃん、貴方の力なら情報を集めることができるんじゃない?」
「は?」
「貴方の国が私達の中でも一番歴史がある。過去の争いについての情報、ありません?」
「い、いきなりなんだよ?」
恐る恐る竜之介の後ろからクラシスが顔を出す。竜之介はアイスを食べながら様子を見ていた。
「耳にしたんでしょう?管理者のこと」
「それをどこで……?」
アルベールが目を丸くしてイブキを見た。
イブキは淡々と答える。
「それは生徒会の方々に。彼らは健の様子を見ているようでしたが。それよりどうなの?争いの記録は残っているの?」
「多分残ってると、思う……」
「何で疑問形なのです?自国のことなら知っているはずでしょう?」
「俺、本読まねえし……ひい!」
自分の国にどのような情報があるのか把握していなかったクラシスに対して怒ったのか、イブキがクラシスをにらみつけた。
クラシスは再び竜之介の後ろへ隠れる。
「とにかくクラシスちゃんは国で管理者について調べなさい。じゃないと……」
「やる!やるから!」
「クラシス、お前あいつと何があったん?」
竜之介がクラシスに聞くが、その答えは返ってこなかった。
「光君。話も必要ですがそろそろ帰らないと余計に心配されてしまいます」
静かになった時にアルベールが口を開いた。
光がスマートフォンで時間を確認すると、もう10時になりそうだ。朝食もとらずにランニングに出てから何時間も経っている。これからどんどん暑くなるし、何より両親が心配している。早めに健を家に連れて帰りたい。
「家まで歩ける?」
光の言葉に、健は立ち上がろうとする。しかし、しっかりと立ち上がることができずによろけてしまう。
地面に体がぶつかりそうになったが、地面と健の間に光が体を滑り込ませたおかげで回避できた。
「歩けないじゃん……」
「歩けるし」
健は再び立ち上がろうとするが、立てずに光の上に座ってしまう。何度チャレンジしても立てなかった。
「……おぶってくよ」
「無理だろ」
健の下から這い出してしゃがみ、背中に乗るように健に背を向ける。健はそこに手をかけた。
「ふんぬぬっ……」
光は起ち上がることはできたが、健の足は床に引きずるようについている。一歩一歩足を進めるがその歩みはすごく遅く、ずるずると引きずっていく。
「俺がおぶるよ。よいしょっと」
竜之介がアイスの棒を袋に乱暴に入れて、健の腕をとり、背中に健を乗せた。光より身長も高く、力もある竜之介は軽々と健を持ち上げた。
「全く知らない男におぶられるなんて嫌だとは思うけど我慢してくれよ」
「ん」
「ごめん、竜之介」
竜之介はスタスタと社を出る。
光は健の荷物とゴミを拾い集める。
クラシスは竜之介の頭に、イブキとアルベールは健と光の肩の上にそれぞれ乗って神社から離れた。
日差しが強く差し込む道を歩く。暑いせいか人通りはなかった。
なるべく日差しを避けて家に向かう。
「あ、健寝ちゃった」
竜之介の背中で静かに健は眠っていた。
疲れがたまっていたのだろう。暑いのもお構いなしに眠っている。
「昨日さ、健が帰ってこなかったんだ。それで探しに来たんだけど、なんか色々大変なことになってた」
「俺もまさかあの時の狐面が、光の弟だとはなあ」
「俺もびっくり。俺、健に嫌われてると思ってた。だけど、なんか違う気がする」
光と竜之介で話ながら歩いていると、イブキがひょこっと顔を出した。
「あら、何言ってるの?健はお兄ちゃん大好きよ?だから体を張ってるんだもの」
「ん?」
「あなたたち、春に自分の居場所を晒してたでしょ?その時にあなたたちに近づく人たちがいなかった?」
光は春頃を思い出す。
サラリーマンに襲われたこともあった。鹿山のこともあった。しかし他に何かあったか考えるが、思いつかない。それは竜之介も同じようであった。
「あったでしょう、もう。あなたたちの居場所知って、いろんな人が寄ってきた。だから携帯の通知が来たでしょう?」
「ああ!あった、あった」
朝起きてからのアプリからの通知。それは確かに何件も来ていた。だけど無視して過ごしていた。
「兄を守るために近づく者全てを退かせたのは健なの。たとえ怪我をしてでも。そうしてるうちに健は強くなったのよ。素敵でしょう?」
「健……」
イブキから聞いた内容は衝撃的なものだった。健が何をしていたのかまったく知らなかった。母が健の怪我や遅刻を怒っていたが、兄のために動いていたから怪我したりしてしまっていたのだ。
光は何も知らなかったことを恥じた。
「途中からあなたたちの居場所がわからなくなったから、やっと何か身につけたんだと思ったんだけども。白髪の子はともかく、クラシスちゃんにそんな細かいこと出来るはずないと思って不思議だったのよ」
「白髪の子……」
アルベールは確かに白い髪だが、名前で呼ばれるのではなくて見た目で呼ばれたことに肩を落とした。
「僕たちは同盟の方からスキルを買いましたが……」
「スキル……」
イブキの顔が曇り始めた。
「どうされました?」
「……いろんな国、いろんな特産物も見てきたけども、今までにスキルを売る国なんて見たことないの」
「でも確かに買いました。そういう国もあるということでは?」
「おかしいのよ、考えてみなさい。スキルとは言い方を変えれば能力ってことよ。例えば、クラシスちゃんの運動能力を買います、だけどクラシスちゃん本人はいりません。そんなことが出来ると思う?」
「俺から能力を取り出して売るってことか?そりゃ無理だ」
「でしょう?だから売ることは出来ない。なのにあなたたちは買って身につけている。おかしくない?」
イブキの説明にアルベールとクラシスは納得する。光たちはもとからアルベールたちの世界にあって当たり前のものが何なのかわからないため、何も不思議には思っていなかった。
そしてどういうことなのかわからないうちに、光の家にたどり着いた。
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