第32話 捜し物


 翌朝、アルベールにたたき起こされた。

 昼寝が長かったせいで夜なかなか寝付けなかった。そのため、まだまだ眠い。


「ほら早く早く!」


 瞼も重く、ゆっくりした動きでベッドから出た光をアルベールがせかす。

 それでも光のスピードは変わらなかった。


「行きましょう!」


 着替えを終えて時計を見ると、6時半になるところだった。


「はーい……ふわぁーあ」


 あくびをしてから、一度両方の頬を軽く叩いて目を覚ます。

 気合いを入れた光の肩にアルベールが乗り、玄関へ向かった。


「こんな早くに探しにいくのか?」


 靴を履いていると父がパジャマ姿で出てきた。


「ランニングしながら探してくるよ。今日は休みだし、多めに走ってくる」


 靴紐をしっかり結び、立ち上がる。

 父はその姿を黙って見ていた。


「んじゃ」


 まだ夏が始まったばかりだが、ジメジメしている。

 玄関を出て一呼吸して、気合いをいれてから走り出した。


 光を見送った父。

 閉ざされた扉をしばらくの間見つめていた。





 住宅街を走る。

 辺りは明るくなっているがまだ早い時間のため、まだ人気はない。


「ここら辺にはいなそうですね」


 アルベールのガイドのもと、道を変えて住宅街から離れて駅の方へ向かった。

 休みの日だが仕事に向かう人たちがちらほらいるようであった。

 しかしその中に健の姿はなかった。


「駅にはいないですね。駅、自宅周辺にいないとなるとあとはどこでしょうか?」


 駅の隣にある自動販売機で小さいペットボトルの水を買って水分補給をする。

 他にどこか行きそうな場所はないかと考えてた。


「どこか思い当たる場所はありませんか?」


「うーん……ん?」


「ありました?」


「あるような……でも今もまだ残ってるか……」


「行きましょう!どこですか?」


「思い出すから。えーっと……」


 飲み終わったペットボトルをゴミ箱に捨ててよく思い出してみる。小さい頃に健と2人でよく遊んだ場所。どこだったのかよく思い出せない。


「やあ。元気にしてるかい?」


 自動販売機の隣で考え込んでいた光に声をかけたのは伊藤だった。


「ああ、どうも」


 そっけない対応をする光だが、伊藤はそれを見て笑い出した。


「何笑ってんの?」


「あははっ!いやあ、すごく似た対応されたことがあってね。そっくりだなって」


「はぁ」


「その反応もそっくりだよ」


「……」


 光は無言で伊藤を見た。

 相変わらずニコニコした顔で何だか腹立ってきた。


「まあ似ていてもおかしくないんだけどね。だって兄弟でしょ?」


「……健か?健はあんたのこと嫌いだって言ってたよ」


「えー?僕は嫌われても彼のことは諦めないよ。ふふっ」


「あっそう」


「彼と昨日約束してたんだけど来なくてさ。まだ後で話そうって伝えておいてくれる?」


「ああ」


「じゃ、僕は学校行かなきゃだからまたね」


 伊藤は一方的に話して駅へと入って行った。

 静かにその姿を見送った光は再び考え始めた。


 伊藤が来てからずっと黙っていたアルベールが光の肩に座り直す。


「昨日あの人と約束していたのですね。また勧誘でしょうか?」


「どうせそうだよ。しつこいやつだな」


「諦めが悪いとも言いますね。場所、思い出せました?」


「ああ。何となくだけど……行こう」


 ふと思い出した場所があった。

 その方向へと走り出した。




 走り出して20分ほどで目的地にたどり着いた。

 自宅からも少し離れた場所にある自然豊かな神社。その鳥居の前で立ち止まる。

 鳥居の先には長い石の階段が続いていた。



「はぁ、はぁ……ここしか……」


「神社……苔もすごいですね」


 木で作られた赤い鳥居は、苔が茂っており、人がよく来るような場所ではないことを語るように木々が伸びたまま手入れをされてないように見える。


「ここなら……よし」


 呼吸もまだ整っていないがゆっくりと階段を上り始めた。

 走り続けた体に長い階段はきつかったが、もしかしたらの可能性にかけて足を止めずに上り続けた。



「あと少しですよ。いけますか?」


「はぁはぁ……げほっ。行く……」


 アルベールはその後何も言わずにフワフワと光に合わせて飛んだ。

 ゆっくりだがしっかりとした足取りで階段を上ると、頂上にたどり着いた。


 狛犬はヒビが入ったり、苔で覆われている。

 小さい頃に来たときはもっと綺麗に見えた気がした。


「ここ、よくきたから……」


 ランニングと階段で足がフラフラだ。

 ついに光は限界になり、その場に座り込んだ。


「お疲れ様です。休んでから探してみましょう」



 光は呼吸を整えて、足をマッサージしたり腕を回したりした。

 かなり回復したところで立ち上がって社周りを歩き出した。


 高い木が周りを囲んでいる。

 念のため下にもいないか確認するが、健の姿はない。

 目視じゃわからないような隠れたところは、アルベールが飛んで見てきてくれた。


「下にはいません……でもこれ、見てください」


 アルベールが手にしていたのは見覚えのあるスマートフォンだった。


「これ……健のだ」


 画面にはヒビが入っている。

 使えるか確認しようとボタンを押してみる。


「な……!?」


「あれ?これは光君じゃ……?」


 ロック画面の背景として使われていたのは幼い頃の光と健の写真。

 家の前で仲よさげに手をつないで写真に写っている。


「面影がありますね!」


 健を心配して探しているのに、スマートフォンの画面で唖然としてしまった。


「どういうこと……?」


 生い茂る中、スマートフォンを持ちながら立ち尽くした。

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