第33話 手がかりと蹴り
「こっちが光君で、となりが弟の健くん……ということは健くんのスマートフォンですね」
「あ、ああ……」
画面にはパスコードの入力を待つようにダイヤルが表示されている。
これ以上勝手にいじるのはよくないと思い、再びボタンを押して画面を消灯させた。
「ここに来たのかも……」
もう一度辺りを見渡す。
しかし、人がいそうな場所はない。
静かな神社。
そこに光とは別の足音が聞こえてきた。
「ん、誰だ?」
おそるおそる光は社の陰から階段の方を確認する。
「みぃーつけたっ!」
階段を上ってきた人物は光を見つけ、地面を強く蹴って飛び跳ねた。
「はあっ!?」
光は慌てて社の陰に入る。
地面は衝撃で少しえぐれた。
飛び跳ねた人は光がそのまま顔を出していれば、ぶつかって蹴られていた。
「チッ……避けやがって」
振り返った人物は茶色の短い髪をした青年だった。着地によるダメージもないのか至って普通に立っている。
「何だってんだ……?」
光は訳もわからず後ずさりする。
「ん?ってあれ?こいつじゃなくね?ヴェルート!」
そう言うと青年の頭の上からひょっこりと現れたのは、アルベールと同じぐらいの人だった。
光はとっさの出来事でその姿を目で追ってしまった。
「お?ほんとだ。昨日のやつと違う!でもこの人もだよ!」
黄土色をした髪をもつヴェルートと呼ばれた人は、青年の頭の上で光を指さした。
「またやっちゃった……」
光は少しずつ後ろに下がる。
健のスマートフォンをポケットに入れて逃げる道はないか考える。
「光君……向こうは攻撃型ですよ。足に気をつけてください」
アルベールは光の横を飛んで頭を働かせる。
「あれ?もしかして兄殺しの人?わー!初めて見た!ねえねえ、湊!あの人お兄ちゃんを殺したんだよ?」
「あの金髪のチビか?ならお前と一緒じゃん」
「一緒!一緒!」
アルベールの顔が青ざめたように見えた。
過去のことを光に話したからといって心の傷が癒えた訳じゃない。
一刻も早くこの場から逃げないとと思い逃げ方を考える。
「一緒でも何でもいいけど、ぶっ潰さないとなぁ?」
湊と呼ばれた青年は再び地面を蹴って光に向かってくる。
今度は慌てることなくシールドをはった。
「クソかてぇ!けどっ……!」
回し蹴りのように反対の足で蹴り込む。
2発目の蹴りでシールドにヒビが入った。
「光君、下がって!このままじゃ危険です」
「へえ、君は光君っていうんだ。また君の防御じゃ俺の蹴りは防げないねっ!」
さらに力を込めたのか湊はシールドを破壊した。
今までにシールドを破られたことのない光は目を見開いて一瞬動きが止まる。その隙をついてさらに蹴りこんだ。
「がっ……!」
「光君!」
湊の蹴りが光の腹部を捉えた。
まだ傷が癒えていない腹部の傷に当たり、痛みが倍増する。
蹴られた衝撃で光は後ろに倒れ込み、背中を地面にぶつける。
「うっしゃ!昨日のやつよりよえーな!」
「ほい!これでグサッと!」
ヴェルートはどこからか先のとがった枝を持ってきた。
「光君!起きて!何かやらないと!」
アルベールは倒れ込んでいる光をゆする。
その間にも湊は近寄ってくる。
「あ、ああ……」
体の痛みを堪えて起き上がるが、頭をぶつけたのか痛む。
命の危機を感じた光は地面に手をついて電撃を走らせた。
「いって!あー!光君が起き上がったぞ?」
「ビリビリきらーい。怒ったぞ、湊!」
湊はわずかに電撃を喰らったが、すぐに大きく飛び跳ねて近くの高い木の上に移動した。
「逃げなきゃ……」
光は頭を抑えながら階段の方へ走る。
しかしそれを湊は逃がさない。
「ずどーん!」
背中ががら空きだった光を狙って、両足をそろえて木から飛び降りる。
その足が見事に背中を捉えた。光は前のめりに倒れ込む。
「ぐっ……」
強く額をぶつけ、地面で擦りむいたのか血が垂れる。
光はまだシールドと電撃しか使えない。
これ以上打つ手がない、死んでしまうと思った。
「よし!今度こそバッチリ!でも俺は人殺しで捕まるの嫌だからさ、狙うのはこっちだよね」
湊は枝をアルベールに向け、振り上げた。
光がアルベールを引っ張り、間一髪で避ける。
「光君!」
「あいつは俺を殺せない……アルベール、逃げろ」
「そんなこと出来ません!」
「いいから!」
アルベールを雑に掴み、思いっきり茂みの方へと投げた。その時のアルベールはとても辛そうで悲しそうな顔をしていた。
「あー確かにその手もありだわな。なら、あのチビが戻ってくるまでは光君に遊んで貰おうかなあ」
湊は枝を手放して倒れた光の隣に立つ。
そして光の背中を踏みつけた。
「はーい、おチビさーん。出てこないと計約さんがどんどんボロボロになっていくよー」
湊は何度とも踏みつけた。
そのたびにうめき声が出る。
「出てこねぇなあ。どうするかー」
光の髪の毛をぐっと掴み、頭を持ち上げる。
光は思いっきり湊を睨んだ。
「あんたなんかにやらせないよ」
苛立った湊は光の頭を地面にぶつけた。
そして光の上に座る。
ずっと蹴られていた場所に圧をかけられ、体に痛みが走るが声を出さずに堪えて叫ぶ。
「アルベール!竜之介を頼れ!」
「あん?」
光の声に反応したのか、遅れて茂みからものすごいスピードでアルベールが上空へ飛んだ。
この神社からなら竜之介の家までそこまで遠い訳でもない。
「仲間呼んじゃったよー?どうする?」
ヴェルートが無邪気な声で湊に聞く。
湊は少しの間をおいて答えた。
「こいつは使い物にならねえ。新しく来たやつとさっき飛んでったやつの両方をぶっ潰せばサイコーじゃん」
「さっすが湊!いい考え!」
湊は光をニヤッと見つめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます