第28話 廃墟


 教室に入ってきたのは、見慣れた制服――健の制服と同じだった。

 知っている制服に身を包んだ男が2人、教室へと入ってくる。

 クラスメイトはなんでこんな所に?といったような反応をしている。

 光も同じ反応をしていた。


「おじゃましますね」


 先に入ってきた男が丁寧に頭を下げて入り、後ろの男はそれに続いて入る。

 光は後ろの男に見覚えがあった。


「あー!てめえ!この前はよくもやってくれたな!?」


 竜之介も気づき、後ろの男にずかずかと近寄る。

 先頭の男は止めようともせず、ニコニコしている。


 後ろの男はつい先日、学校内に現れた男だった。髪型、歩き方が記憶と一致している。


「すみません。僕たちは星和泉高校の生徒会です。お話があるのですが、このあとお時間よろしいですか?」


 ニコニコした男は光の前に立ち止まって声をかけた。

 知らない人物に話しかけられた光はとまどい、目をそらす。


「あの、もしかしてご都合悪いのですか?」


 男は丁寧に聞いてくる。

 クラスメイトが注目している。

 光は目をそらしたまま答えた。


「時間は大丈夫、です……」


「よかった!行きましょう!」


 男はぱっと顔が明るくなり、光を促す。


「竜之介もいい?」


「もちろん。お2人にお話があるのですから」


 今にも殴りかかりそうだった竜之介がキョトンとした。

 2人の他校の生徒に続いて荷物をまとめた光が歩く。

 置いて行かれないように、竜之介も荷物を持って追いかけた。




 後を歩いて着いたのは、学校から離れた人気のない木製の廃墟だった。

 入口に立ち入りを禁止するような表示もなく、普通に入って行ったため、光たちも恐る恐る続く。


 木の扉を両手で横に開けると、ギシギシと音がなった。

 縫製工場だったのか糸や布が多くある。

 建物は古いがそれに比べると中は綺麗に感じた。


「ささ、座って座って」


 2人の男がそれぞれイスを1つずつ持ってきて、光たちに座るように促した。

 男たちも別のイスを持ってきて座る。

 全員座ったところで、光に声をかけた男が口を開いた。



「改めて、僕が星和泉高校の生徒会長やってる伊藤いとうかいです。それで彼が副会長の……」


仁村にむら幸人ゆきと


 伊藤と仁村が自己紹介する。

 伊藤は見た目が爽やか、反対に仁村は暗い印象を受ける。対極の2人が生徒会なのだから個性が強そうだ。こんなところに健が勧誘されているのは断るの我が大変そうだなと思いながら聞いていた。



「俺は忘れねえぞ!この前こいつ……仁村が俺たちの所に来たんだ!」


 竜之介は立ち上がり、仁村を指さした。

 それに仁村は全く動じない。前髪で目は見えないが、視線すら合ってないだろう。


「そうです。そのことについて謝りたく思いまして……」


 伊藤の言葉を遮るように竜之介は声を荒げる。


「謝るならなんで狙った?何考えてんだ!?」


「彼にあなたたちの方へ向かわせたのは僕の指示です。力を知るためにだったのですが、やりすぎましたかね?」


「ったりめえだ!こっちはどんなおも……待てよ、それならお前も契約してんのか?」


 竜之介が途中でハッとして問う。

 伊藤はうんうんとうなずいて話す。


「ええ、僕も彼も契約しています。あいにく今は席を外していますが」


「それなら何の用だ?ここまで連れてきて謝罪だけじゃないし、襲うために来たわけじゃないだろ?」


 ニコニコしている伊藤に不信感を抱いた光も口を開いた。

 今度はしっかり伊藤の目を見る。


「ええ。こちらと同盟を結ばないかという提案をしたいと思い、お呼びしました」


「は?1回襲ってきたやつらと組めっていうのかよ。馬鹿か。帰ろうぜ、光」


「僕たちは早く、この争いを止めたいのです。争いで苦しんでいる人がいる……心当たりあるのでは?」


 立ち去ろうと光の腕を竜之介が掴んだが、伊藤の言葉でアルベールを思い出す。

 過去にとらわれたアルベールは悩んでいる。それはこの争い自体に関係ないかもしれないが、争いと過去の両方に頭を抱えるアルベールに苦しんでいないはずはない。


 何も言葉がでずに、光はまたイスに座った。


「争いを終わらせるには2つの方法があります。1つは3月まで生き残ること。もう1つは争いを見ている管理者を倒すこと」


「管理者……?」


 1年間の争いということは既に知っていた。

 だがアルベールの話では『管理者』という言葉は聞いたことがない。


「ええ。管理者を倒せばこの争いはすぐに終わります」


「そんな話聞いたことないし……」


「君の王様がどのような方かは知りませんが、この情報は僕のところの王が調べてきたので確かだと思います」


「管理者って誰だ?」


「そこは同盟を組んでくれたらお話しましょう。あらかた目星はついています。怪我をさせてしまったお詫びにここまでの情報は差し上げます」



 伊藤は光たちが頷くと思っているのか、ずっとニコニコしている。

 その笑顔が何だか不気味に感じた。


「どーするんだ、光。俺はお前に従うぜ」


 竜之介は光の顔を見た。

 光も頭がいいわけではない。

 3月まで耐えきるか、管理者を犠牲にして早く終わらせるのかどちらを選ぶべきなのかわからない。

 どうするか悩んでいると、ずっと口を閉じていた仁村がせかした。


「ねえ、ここで早く決めてよ」


 前髪の隙間から片目だけ鋭い瞳が光をうつしていた。


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