第27話 殴り殴られ
アザが消えかけてきたころ、日差しが強く夏がやってきていた。
制服が夏服になったがそれでもジメジメとした暑さが襲った。
「あっつい……溶けそう……」
登校で汗だくになる。
しかし、教室に入れば涼しい風が光に当たる。
「おはよっす。今日もあちいな。頭がおかしくなりそうだぜ」
竜之介はシャツの胸の部分を持って仰ぎながら光に挨拶する。
教室の冷房はまだつけたばかりなのか、早くから教室に来ている人はおのおのタオルやノートを使って風を起こしている。
「おはよう。この暑さが続くと確かにおかしくなりそうだよね」
「だよなぁ。冬は冬で寒いし、早く秋にならねえかな」
「まだまだ暑くなるからね。ほんと秋になってほしいよ」
他愛もない会話をしながら授業の開始を待った。
授業もいつも通りに進み、何も変わらない日常かのように思えた。
午後の授業。
担当の教師が時間になっても来ない。
誰も呼びにいくことなく、教室がざわついたまま20分が過ぎた。
すると、突然扉がガラッと開かれて教師がやってきた。
しかし、目がうつろで様子がおかしい。
教師は持ってきた資料を雑に教卓に置いた。
光だけでなく、クラスメイトたちも何かおかしいということに気づいたようで、席に戻って静かになった。
「せんせー、なんで遅れたんですかー?」
空気を読まない誰かが少し笑いながら質問した。
教師は質問を投げかけた方を鋭い目でにらみつけた。
何かおかしい、危険だと感じた光は練習してきたシールドを左手を前に出して光の机の周りにはって身構える。
「うるさい、うるさい……貴様らは私に従うしかないんだ。貴様ら全員で殴り合え!」
いつもの教師ならば絶対に口にすることのない言葉。
その言葉を聞いたクラスメイトは一瞬目を見開いたように見えたがすぐに立ち上がり、前後左右周りにいる者を殴り始めた。
「え……?」
目の前で起きているカオスな出来事に理解することができず、光はただ見ていることしかできない。
顔を殴ったり、腹をなぐったりと机と椅子がガタガタと音を立てているが気にせずに男女関係なく殴り合っている。
血が出ていたり、倒れ込む人もいる中お構いなしだ。
「なんで貴様は何もしない……?」
教師が座ったままの光に気づくと、ゆっくりと近づいてきた。
「貴様も殴り合ってろ」
光は動かない。
光は危険を感じてシールドを強くはった。
教師はシールド内に入って来ることができず、シールドを叩いている。
後方の席の竜之介に目をやると、竜之介も何が起きたかわかっていないようでキョロキョロとクラスメイトたちを見ていた。
そんな竜之介と光は目が合った。
「どういうことだ?何が起きてっ……てめ、殴んじゃねえ」
光に聞こうとしていたときに、横から竜之介の頬を殴る者がいた。
喰らってしまった竜之介は殴ってきた手をとり、床に押しつけた。捉えられた側は、動きがとれないようでもがいている。
「わかんない!どうしよう……」
教室から出て逃げようにも、入口付近には殴り合ってる人たちがいる。
強行突破は難しそうであった。
「ふむ……これはそうですね……光君、電撃いけますか?」
机の横にかけていたバッグからアルベールが出てきて、ふわっと飛び光の肩にとまって言った。
「電撃ってあのビリビリ?いいの?傷つけちゃわない?」
「怪我するよりはマシでしょう?」
アルベールがニコニコして言った。
以前よりもやることが大胆に、豪快になってきた気がする。
アルベールの提案に光はうなずき、しゃがんで床に右手をついた。
左手はまっすぐ正面に伸ばしてシールドを、右手を床につけてアルベールと共に電撃を走らせた。
数秒間教室からまぶしい光があふれた。
電撃を受けた人たちは我に返ったようだ。
殴っていた手が止まった。
「あれ?なんでこんな痛いんだ?」
「なんで私顔がこんなにも痛いのよー」
「なんで俺はお前の襟を掴んで……?」
クラスメイトたちは何が起きていたのかわからないようで困っている。
光と竜之介もわかっていないので困っているが。
「私は何を……?なんでみんなそんなに怪我してるんだ?まあ、とりあえずみんな、席を直して授業始めるぞー」
教師は何事もなかったように授業開始を指示した。
授業時間はあと少ししかなく、席を戻したりおのおのの顔の傷を確認したりしている間に授業の時間は終わってしまった。
結局、教室内で異常な行動を見たのは光と竜之介だけだった。
クラスメイトたちは覚えてないようで痛む箇所を押さえている。
廊下からこちらを見ている人がいることには気がつかなかった。
机やイスを戻す作業の様子を廊下から少年が見ていた。
授業の終わりを告げるチャイムとともに、教室は再びざわついた。
痛み、教室が荒れた原因がわからないクラスメイトは困惑している。
光たちも困惑していた。
「光、今のは何だったんだ?」
竜之介が光の席にやってきて聞いた。
しかし光にもわからないので、首をかしげた。
「また電気を使ったんだろ?ビリッときたぜ」
「ごめんね。痺れちゃうでしょ?」
「平気だ!クラシスの機転で今回は自分を魔法で強化してたからな!」
竜之介はニカッと笑う。
少し申し訳なく感じていたが、光はその顔を見て心配するほどじゃないなと感じた。
「あれ、何が……ん?あいつら誰だ?」
ざわざわしていた教室が一気に静かになる。
教室に入ってきたのは見たことのある制服を着た人物だった。
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