第26話 放課後の集い


「先輩!」


 放課後の屋上には葵が待っていた。

 屋上の扉を開けた光と竜之介を見ると、勢いよく走り寄ってきた。


「誰も来なくてどうしようかと思いましたよ!」


「休んでごめんね」


「まあ、ちょっと色々あってな……そのことについても話すことあるんだけど、まずは花たちに水あげなきゃな!」


 ニカッと笑った竜之介と共に、荷物を置いてからいつも通りの花の世話を始めることにした。

 光、竜之介、葵の3人が水やりをしている間、アルベール、クラシス、ヒリスは机の上でその様子を見ていた。


 今日は水やりだけを行ったためすぐに終わり、机の周りに全員集まった。


「先輩、何かあったんですか?」


 イスに座るなり葵が光と竜之介の顔を見て聞いた。


「昨日なんだけどな……」


 竜之介が昨日の出来事を話し始めた。

 学校内に現れた謎の男。

 その男によって操られた竜之介が光を殴ってしまったこと。

 起きたことを順を追って話した。

 葵はそれを真剣な顔で聞いていた。


「光先輩は怪我、大丈夫なんですか?」


 光の顔を心配そうに見つめた。


「うん。顔もわかんないでしょ?」


 葵は光の顔をさらによく見る。

 じっと見つめて顔を隅々まで確認している。


「あ!ファンデですか?」


「気づかれにくいみたいだ。よかった」


「本来の肌の色と合ってます。よーく見ないとわからないですよ、これ」


 アザは健のから学んだ技術で隠せていることが改めてわかった。


「あんときはアルベールが来てくれて助かったぜ」


「いえいえ、手荒ですみません。ご迷惑おかけしましたが、復活しました」


 クラシスはアルベールの肩を組んで笑った。

 竜之介とクラシスの行動が似ていて、光は腹部が痛んだがクスッと笑った。


「その調子ですと、全てスッキリ話せたようですわね」


 ヒリスは日傘で日差しを避けながら言った。


「ええ。全てお話ししました。もう大丈夫です」


「ヒリスはね、自分のせいで苦しめちゃったんじゃないかって落ち込んでたのよ」


「葵!余計なこと言わなくていいの!」


 ヒリスと葵のやりとりも仲がよいからできることであって、微笑ましく感じた。


「問題は学校にきた男、俺らのこと知ってるようだったんだ」


「どういうことだ?」 


 クラシスはさっきとは違い、口を開いた。

 竜之介はそんなクラシスに問いかけた。


「あいつ、『どっちをやればいいんだっけ』って言ってた。少なからず契約者がいることについては知ってるんじゃねえか?」


「そのようなことを言っていたのですね。その言葉からすると、確かに知っていたかのように感じます」


「だろ?結局あの王様がどっちもって言ってやられたわけだけど……」


「それはどちらの王だったのです?」


「どちらって、俺は見たことないやつだったな。こう、水色の髪と目をした子どもみたいなやつで……」


 男がやってきたときにアルベールはいなかった。クラシスからの情報をもとにアルベールは考え出した。


「水色の髪と目……使うのは精神干渉系魔法……おそらくですが、それはスタンツィではないですかね?」


「それはどこの国のお方かしら?」


「国の名前はわかりませんが、北の方の小さな国です。彼は見た目とは裏腹に、残虐性があるという話を聞いたことがあります」


 見た目は可愛らしい王にも見えた。しかし本性は違うようだ。


「あくまで噂程度ですけどね。そのスタンツィならばおそらく出会ったら殺してしまうこともすると思うので、確信はできないのですが……」


「確かにあれだけで帰ってくなんておかしいよなあ。帰りに『言われたことはやった』って言ってたし」


「待ってください、クラシス様!言われたこと……そうなると命令した方がいるのではないですか?」


「お!確かに!」


「指示した者がいるのならば、もっと強いのかもしれませんね……気をつけないと」


 アルベールの言葉に全員がうなずいた。


「ならどうするかって話だな」


「うーん……」


 以前も対策を考えたことはあるが、解決案は出なかった。結局振り出しに戻ってしまい頭を抱えることになった。


「ヒリス!情報集めてみるのはどう?」


 沈黙が続く中、口を開いたのは葵だった。

 ヒリスは振り向き少し考えた様子だったが、葵の声に答えた。


「そうですわね。まずは知ってからというのもありかもしれません。それにこのまま考えていても何か案が出るとは思えませんし」


 ヒリスは葵の手のひらに乗った。

 葵はスッと立ち上がって光たちから少し離れたところで立ち止まり目を閉じた。


 2人を淡い光が包み込む。

 何をしているのかわからないが、その様子を光たちは静かに見ていた。


 2人の元へ、小さな光がヒュンヒュンと集まってくる。そのたびに葵の眉が少し動いた。

 3分程その光景が続き、次第に光が消えてゆっくりと葵は瞳を開けた。


「ふうー。頭が追いつかないよー」


 葵はヒリスと共に光たちの元へ来て座った。

 数分間だけだったが、凄く疲れているように見える。


「お疲れ。んで、何してたんだ?」


 不思議そうな顔をしながら竜之介は葵に問いかけた。


「情報収集です。この付近の王様たちの情報を集めました」


「へえ。何かわかったか?」


「はい。誰かはわかりませんが、何かを探っているようでした。いろんな所に行っては、調べているようです。ここより少し離れたところをベースに動いてますね。もう1人は逆に、ほとんど出かけずにいます。結構近いとこにいますね。この2人がすごく強いみたいです」


「なんで強いってわかるんだ?」


「力の弱い者の情報は集まらないのですわ。目立った行動をしていたり、誰かを倒している場合のみの情報をピックアップしていますの」


「なんかすげーな……」


「その分葵にはかなり負荷をかけてしまいますけど」


 葵は息こそ乱れてはいないが、だるそうだ。

 葵から得た情報をもう一度頭の中で整理する。


「強いのが2人……動かないやつには近づかなければいいけど、動き回るやつにはどうする?」


「逃げる?」


「何かを調べてるんでしょ?気になる……」


 光がはうーん、と腕を組んで考え始めた。


「調べごとの内容は知らなくてもいいんじゃね?とりあえずはそれっぽいやつが来たら逃げる。戦わない!」


「竜之介らしいっちゃらしい対策……」


 半分あきれ顔の光だが、今のところはそれしか方法がないため、その対策で過ごすことにした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る