第25話 過去の闇
「僕の、ことをお伝えします。この姿のことも……」
アルベールの口から、ゆっくりと語られた。
――僕には兄、ギルディールがいました。
綺麗な白い髪に黄金の瞳。それは僕の家系に引き継がれる特徴を持っていました。
そんな兄は、次期国王として期待され勉強していました。
その後、僕が生まれました。
黒い髪に血のような赤い瞳。僕は呪われた子と呼ばれ、忌み嫌われました。
そんな僕は父である王とも、僕を産んだ母とも関わることを許されず、城の外れの塔で隔離されて育ちました。
皆が望むのは兄。僕は不要な人間。なんで生かされているのかすらわからず、毎日食べて寝るを繰り返すだけの生き方をしていました。
塔の中という狭い世界で唯一面会できたのは兄だけで、僕の世界には兄しかいませんでした。
兄は僕に食事以外にも色々な本を持ってきてくれたり、勉強を教えてくれたりしました。
魔法も兄に教えてもらいました。
兄が得意なのは国を守る防御魔法。
僕はその魔法は苦手で、攻撃魔法しかできませんでした。
それでも兄は得意を伸ばそうと攻撃魔法の応用も実践しながら細かく教えてくれました。
いつも通り、兄から魔法を教わっているとき、僕の魔法が暴走し兄の胸を貫きました。そしてその傷で兄は亡くなりました。
僕が兄を殺したんです。従者には何も口外しないように指示はでてましたが、人の口に戸は立てられません。兄を殺したのは僕だという話があっという間に広まりました。
兄が亡くなって、次期国王は僕ということになり、そこから猛勉強しました。
皆は兄を望んでいた、だから望まれるようにに僕は兄になるべく、常時魔法で髪と瞳の色を変えて、攻撃魔法を使うのをやめて、苦手な防御魔法を身につけました。
そうして、国民の信用を得るためにも努力してきました。でも、兄が亡くなったのは僕のせい。過度のストレスと常時魔法を使っていることによる疲労が限界を超えると、しばらく眠ってしまうみたいです――
アルベールは自分のことについてスラスラと話した。
アルベールに兄がいて亡くなっていることは知っていたが、他のことは初知りだった。
自分が兄を殺してしまったという気持ちがアルベールの中にはある。それを抱えたまま生きていくなんてさぞかし苦しかったであろう。
気持ちを考えると胸が苦しくなった。
「僕は人殺しなんです」
アルベールは少しうつむいて、弱々しく言った。
これがクラシスが言っていた、聞いてもアルベールを嫌いにならないでほしいということだろう。
アルベールは自分が嫌われるのではないかという不安もありながら、話してくれた。どれだけ勇気が必要だったか。
「話してくれてありがとう」
光はうつむくアルベールの頭を指でなでた。
アルベールはそのままうつむいたままだ。
「お兄さんは事故だったんだろ?それでアルベールを嫌うことはないよ、ね?」
アルベールは潤んだ瞳で光を見つめた。
「光君は、優しいです……ありがとう」
涙をこぼすアルベールを光は優しい眼差しで見つめた。
アルベールが落ち着いたころ、光は変わらぬトーンで声をかけた。
「なぁアルベール、質問していいか?答えたくなかったら答えなくていいから」
言葉はなく、アルベールは強くうなずいた。
了承を得た光は質問をする。
「……アルベールの魔法を、お兄さんは防がなかったの?」
アルベールの兄は防御魔法が得意だと言っていた。ならばアルベールの暴走した魔法を防ぐことができたはずだ。防いでいれば、命を落とすことはなかっただろう。
「……すみません。よく覚えてないです」
アルベールは間を置いて答えた。
目の前で起きた衝撃的な出来事を鮮明に覚えていることの方が珍しい。人は嫌なことはできるだけ思い出したくない。
「そっか」
今する質問ではなかったなと反省し、話を切り上げた。
体は痛むので早めにベッドに入った。アルベールが目覚めたことによりこの日はいつもよりぐっすりと眠ることができた。
翌日の朝、いつも通りに学校へ行く前に健に貰った道具で顔の傷を隠した。
健ほどうまくはできないが、アザはわからない程度には出来たと思う。
家で朝食をとっている時に、家族に何も言われなかったから学校でも大丈夫だろう。
朝アルベールの姿はいつも通りの白い髪に黄金の瞳になっていた。
アルベール曰く、この姿の方が落ち着くからだそうだ。
元気そうな姿のアルベールに安心して光は学校へ向かった。
学校ではいつものように竜之介が駆け寄ってくる、そう思っていた。
教室に行くと、机に伏せている竜之介がいた。
「おはよう、竜之介」
ガタンと音を立てて、光の声に驚いた竜之介が立ち上がった。
光の顔を見るなり竜之介は目を丸くしている。
「おま、顔……」
「ん?」
光の顔をじっと見つめる。最初は離れていたが、少しずつ近づいて見つめている。
その様子を見ていたクラスメイトたちがざわつき始めた。
「竜之介、顔近い」
「お、おう……」
光の言葉で竜之介は離れたが、不思議そうに見ているので光が説明した。
「これね、上から塗ってるだけなんだ」
「そ、そうか……昨日はすまなかった!」
光の肩を掴み、竜之介は謝罪した。
竜之介の制服のポケットからクラシスが申し訳ない顔でこちらを見ていた。
「あいつのせいであって、竜之介のせいじゃないよ」
「だとしても、俺は何も出来なかった。体調悪いのに殴って痛かっただろ?」
肩を掴む力が強くなる。
それとともに、少し震えてるのがわかった。
「大丈夫だよ。いつか治るし」
肩の竜之介の手をとり、光は竜之介に伝えた。
肩にかけていたバッグからアルベールが顔を出して微笑んだ。
クラシスはそれで何かを察したようで、表情が明るくなった。
しかし、竜之介はずっと辛そうな顔をしている。
「俺が弱いから。友達を殴った……」
辛そうな竜之介にどうしたら安心してもらえるかと考えるよりも先に言葉がでた。
「殴っても友達でいてくれる?」
「っ!そりゃ俺の台詞だろ!もちろんだ!」
「よかった」
いつもの竜之介になったようで、一安心した。
クラスメイトは何事かとコソコソと話していることは気にならなかった。
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