第21話 ことの原因
保健室で応急処置をされながら、鹿山のことについて詳しく聞かれた。
竜之介は傷が浅くすぐに処置は終わったが、光の傷は思ったよりも深いようで、教師の付き添いで病院に行くことになった。
竜之介はそれについて行くといったが、ことの経緯を聞くためにも学校に残ることになり、教師と光の2人で近くの病院へ向かうことになった。
保健室での処置中に別の教師が光の鞄を持ってきてくれていたので、保健室からまっすぐ病院へ行くことが出来た。
移動中、光の鞄の中のアルベールの様子を見てみた。変わらずぐったりしている。
病院では消毒されたりするたびに痛かったが、我慢して声を出さずに堪え、手は包帯でグルグル巻かれた。
たまたま病院も空いていたため、早く終わったので学校へ戻ってまた詳しく話をすることになった。
職員室横の会議室へ連れていかれ、部屋に入ると竜之介が既に座って話をしているところだった。
「光!大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ。病院でも診てもらったから大丈夫」
「よかったー……」
竜之介は本当に犬のようだと感じた。
光が会議室に入るとすぐに立ち上がって駆け寄る。
飼い主を見つけた犬のようだと思ったが、決してそれを口にはしない。
時計を見ると、3時になりそうだ。
お昼すら食べてないので空腹を示すように光のお腹がぐうとなった。
教師はそれで察したのか、職員室へ一度戻り、菓子パンを持ってきてくれた。
それをいただきながらことの経緯を全て話した。
「俺は光についてっただけだし、光も何もしてねえ。あいつが急にナイフを振り回したんだ」
ほとんど話してるのは竜之介で、光は聞きながらパンを食べていた。教師の質問にはちゃんと答える。教師はメモしながら話を聞く。
全て話を終えた時には17時になっていた。
授業はとっくに終わってるし、部活もそろそろ終わりかけの時間だ。
葵に何も連絡をしなかったので、会議室を出てから屋上へ向かった。
「先輩!大丈夫でしたか!?」
葵はヒリスと共に屋上で待っていたようだ。
屋上にやってきた2人に駆け寄った。
「怪我したけどな。悪いな連絡しなくて」
「ごめんね」
竜之介と光が謝る。葵は少し目をうるうるさせてヒリスを抱きしめた。
「よかったです!噂だけしか情報がなかったんで心配しました!でも、よかった……」
「葵はずっと待っていたのですよ?何をされてたんです?」
「色々あってな。噂ってどんなの?」
「血まみれの2年生が廊下を走ってた、2年生の金髪が黒髪2人を連れてどっかに行ったって……」
「噂って当たったり外れたりするもんだなあ」
とりあえず屋上でイスに座り、起きたことを全て話した。
手当てされた傷を見た葵は、声を出せないほど驚いた。そして、ものすごい心配してくれた。
「光を切ったやつ、操られてるみたいだったぞ」
竜之介のポケットからクラシスが顔を出した。
今までずっとポケットにいたのだろう。ことの経緯をわかっている。
「クラシス様、それはどういうことですの?」
「術士じゃないから詳しくないが、あいつの首になんかの術印があった。あれのせいでおかしくなったんだろう」
クラシスはポケットから出て机に腕を組んで立った。
「それじゃ鹿山も被害者なんじゃ……」
「普通の人には術なんてわかるはずもない。被害者になるかもしれないが、傷害になるだろうな」
竜之介はなんとも言えない気持ちで口をつぐんだ。
「ピンポイントで俺たちに近づいてきたんだ。気をつけなくちゃだぞ、竜之介」
「ああ……」
「竜之介は凄いよ。立ち向かって行けたんだもの」
光のつぶやきに竜之介は驚いたように光を見た。
「何言ってんだ?鹿山についていこうとした時点で、光はすげーだろ?」
「光先輩!苦手な人に立ち向かうだけで凄いです!」
2人の言葉に何もできない自分が少し救われた気がした。
「葵、そろそろ帰る時間なのでは?」
ヒリスに言われてスマホで時間を確認すると18時になりそうだ。色々あったが下校することにした。
葵は自転車通学だが、光と竜之介とは家が反対の方向なので校門で別れた。
光は自転車を押しながら竜之介と歩く。
傷のある左手でハンドルを持つのは少し痛んだが、我慢できる程度なので耐えながら歩いた。
「アルベールも回復しない間、光、お前は特に気をつけろよ。俺とクラシスでもフォローするけど、注意することに越したことはないからな」
「そうだね。早く起きてくれればいいんだけど……」
アルベールは一向に起きず、呼吸は落ち着いてきてはいるがずっと眠ったままだ。
この状態で狙われたら危険だ。アルベールがいなくてはシールドを使うことすらできない。また、アルベールのことが心配でろくに眠れない。
「んじゃ、俺こっちだから!またな!」
竜之介とは手を振って別れた。
光も自転車にまたがり、家へ向かう。
学校から家には連絡が入ってるようで、家に入るなり母から声がかかった。
「光!あなた学校で何してるの?そんな怪我するなんて……」
「うん、気をつけるね」
光はさっさと母の横を通り過ぎ、自分の部屋に向かっていった。リビングから、健がその様子を見ていた。
「アルベール……」
鞄から机にアルベールを移動させ、自分はベッドに座る。
怪我をした手を見て、痛みへの恐怖を改めて感じた。そして、『戦争』をしているアルベールたちも恐怖があるのだと思うと、どうして強く生きて行けてるのかわからなくなった。
「アルベール、教えてくれ……」
光の言葉は静かな部屋に溶けて消えていった。
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