第19話 白と黒

 ゴールデンウィーク3日目は連休最終日。

 全員が部活に参加する予定だ。


「おっはよーございまーす」


 1番最後に屋上へやったきたのは葵だった。


「よーっす。なんか元気そうだな」


「はい!昨日はお休みしてすみませんでした」


 葵はとても嬉しそうにスキップしてバッグを机に置いた。

 置いたバッグからはヒリスがもぞもぞと顔を覗かせた。


「もう!痛いわね!」


「あ、ヒリス」


「クラシス様!ヒリスの心配をしていただきありがとうございます!」


 机の上でアルベールと並んで座っていたクラシスを見て、ヒリスは痛みも忘れ元気になったようだ。


「おはよう、葵」


「おはようございます、光せん、ぱい?」


 光の顔を見るなり葵はどんどん光へ近づく。

 突然の行動に光は目をそらして後ずさりした。


「うーん?ん?うーん…」


「ち、近い……」


 葵の顔がどんどん光に近づく。光の背中がフェンスにたどり着き、これ以上後ろにはいけなくなってしまった。しかし葵は光の顔を下からのぞき込むように見ている。


「おい、葵!光が困ってんぞ!離れろって」


 間に竜之介が割り込んだ。何が何だかわからない状態だったが、光は竜之介のおかげで一安心した。


「す、すみません!昨日見かけた方に凄く似ているな、って思って……目元とか?」


 葵は光から離れて頭を下げた。


「似てるやつなんていっぱいいるだろ。そっくりさんが世の中3人ぐらいいるって話じゃなかったっけ?」


「いえ!見かけた方はとても綺麗な方だったんですけど、何となく似てるんですよ。あ!名前も早瀬って……」


「早瀬は光の苗字じゃね?」


「ですよね……光先輩、ご兄弟とかいます?」


 葵は再び光に接近して問う。竜之介がとっさに間に入って葵を止めようとするが、葵の勢いは止まらない。


「お、弟がいるけど……」


「やっぱり!?もしかしたら弟さんかもしれないですね!先輩がもっと髪が短かったらそっくりですよ!」


「そんな光と似てるのか?」


「はい!よく見るとそっくりです!」


「そこまで言われると気になるな。光、写真ないのか?」


「……ないよ。あまり、仲がよくないんだ」


「そりゃ残念。ま、とりあえず花に水やりすっぞ」


「はーい」


 葵から解放された光は弟のことを思い出して不安な気持ちになった。なぜ怪我が多いのか、遅刻が多いのか。心配になる。

 心配そうな顔をした光に気づいた竜之介は光の肩を組んで歩く。


「今は部活だ!な」


 何かを感じてるのか竜之介は笑顔で歩く。

 つられて光も歩き、部活という名の園芸を始めるのであった。



 一方、3人の王たちはおのおのの国をスマホで確認していた。変わったことはないか、財政は、他国はどうかを確認する。


「あ、調査が終わったようです」


「例の連続死亡案件か!どうだった?」


 アルベールは調査報告書を読む。


「えっと、え?これは……」


「どうしたんだ?」


「亡くなった方の血液から、同一成分が検出されました。この成分はその、自白剤かと……」


「それってどっかの国が情報とろうとしてやったんじゃ?」


「かもしれません。この村は国境近くにありますから、他国の者の手がかけやすい場所でもあります」


「ならば今後の被害を防ぐためにも、国境近く住む者には避難していだたくなり、血液検査するなりしなくてはなりませんね」


「すぐに指示します!」


 アルベールは急いでスマホを操作し始める。

 クラシスとヒリスはその様子をうかがっている。


「しっかし、どこの国がそこまでして情報を集めようとしてるんだ?」


「どんな情報を必要としているのでしょうかね」


「アルベールんとこっていったら兄貴のことしかおもいつかねえんだよな。アルベール、光には話したのか?」


 アルベールは手を止めた。


「まだ、話せてないのです。嫌われてしまうのではないかと思ってしまって、話せないんです……」


 アルベールは塞ぎ込んでしまった。

 ヒリスはあきれた顔で話し始めた。


「あなたねぇ、いつまでもそうしてるつもりなの?いい加減にしなさい!過去に引きずられて生きてく訳?はあ……あきれた。そんなんじゃ攻められて終わりよ!」


「いや、僕、は……その」


 アルベールは膝を抱えて小さくなってしまった。


「ヒリス!言い過ぎだ!誰でも辛いことはあんだろ?」


「お言葉ですがクラシス様!クラシス様は甘やかしすぎなのです!それではこの戦いに残ることはできません!」


「アルベールのことも考えろっつてんだよ!お前も知ってんだろ!」


「考えてのお言葉です!それに先に兄の話をしたのはクラシス様ですわ!」


「うっ、それはそうだが……だとしても言葉を選べ!」


 2人の言い争いはどんどん激しくなっていく。


「やめてください!僕がダメなんです!僕のせいでもめないでください!」


 アルベールは小さくなったまま声をあげた。

 クラシスとヒリスの2人の言い争いが止まった。

 急なアルベールの声に気づいた光たちが、何だ何だと手を止めてアルベールのもとへやってきた。


「アルベー……ル?」


 アルベールの様子がおかしい。

 呼吸も荒く乱れている。

 顔は膝を抱えて下を向いてるため見えないが、綺麗だった白髪が毛先から少しずつ黒くなってきている。

 アルベールは少しだけ顔をあげた。前髪の隙間からは黄金の瞳が見えるはずだったが違っていた。


「アルベール……?その色、どうした……?何があったんだ……?」


 ちらっと見えた瞳は、血のような赤に染まっていた。


「ちがっ!僕、は!これは僕のせい、なんです……だから僕は、僕は!……っ!」


 アルベールはそう言うと、頭と胸を押さえて倒れ込んだ。光は持っていたじょうろを置いて、アルベールに近寄る。


「少し言い過ぎましたわね……謝りますわ」


「悪かったな、アルベール」


 ヒリスとクラシスが謝罪する。

 アルベールは尚、苦しそうにしたままだ。


「おい!アルベール!しっかりしろ!」


 めったに大きな声を出さない光が声を出してアルベールに呼びかけるが、アルベールからの返答はない。苦しむ姿を見ているしか出来ない。


「ねえヒリス、何があったの?教えて」


 葵の問いにヒリスは素直に答えた。


「ちょっとクラシス様と言い争いしてただけですわ。そこの彼のことについて」


「それでこんなに苦しむことはないでしょう?」


「普通は確かにないですわ。ですが、彼には問題がありますの。詳しくは話せませんが」


「クラシス。お前はどうなんだ?」


 今度は竜之介がクラシスに問う。


「俺からも何も言えねえ。これはアルベールの問題だからな。わかってくれ、竜之介」


 納得できるような答えを手に入れることは出来なかった葵と竜之介だが、それ以上は聞くなといったようなヒリスとクラシスの顔を見て何も言えなかった。


「アルベール……」


 光の言葉が届いたのか、赤い瞳がゆっくりと開いた。

 苦しそうにしながら、アルベールは口を開く。


「心配、しないで……くっ!」


 そう言うとまた痛みと闘い始めた。

 何も出来ない光は悔しくなる。


「とりあえず、今日は解散にしよう。明日は学校あるし、今日はゆっくり休め」


 竜之介の提案に皆うなずく。

 葵は光が持ってきていたじょうろも片付け始めた。

 光はその間、アルベールの傍を離れなかった。


「その、光。俺の口からもアルベールのことについては言えない。アルベールが話せるようになるまで、待っていてくれないか?それで話を聞いて、アルベールのことを嫌わないでほしい」


 クラシスは光に頭を下げた。


「アルベールには時間が必要なんだ。向き合うための時間が。前にもこんな風になったことがある。しばらくしたら前みたいになるはずだから。どうか、アルベールをよろしく頼む!」


 ひたすら頼み込むクラシスを光は優しい目で見て答えた。


「もちろんだよ。アルベールが落ち着くまで、ちゃんと待ってる」


「よろしくな、光!」



 ゴールデンウィーク最終日の部活は暗い雰囲気で幕を閉じた。

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