第18話 それぞれの日
ゴールデンウィーク2日目。
葵は今日、先約があるのでお休みだ。
光と竜之介の2人で部活をする。
「正直、今日は水やりぐらいしかやることねえぞ」
「じゃあ水やりして解散でいいんじゃない」
「どんだけお花大好き人間だよ。対策考えるっていっても何もおもいつかねえしなぁ」
2人は緑のじょうろで水やりをしながら会話していた。その間、王たちは何やら2人で密談しているようだった。
「葵の彼氏ってどんなやつなんか気になるわ。うちの学校じゃなさそうだし?」
「どこ情報、それ」
「俺の勘!」
「はあああー……」
竜之介のそのような勘はいかがなものだろうか。何も根拠なく、ただの勘に光はあきれてため息がでてしまった。
「大分、光もリラックスしてきたみたいだな!最初に会ったときにはもっとピリピリしてたもんだ」
「竜之介のおかげでね、気は抜けてるよ」
「よかった、よかった!」
じょうろの水がなくなった。全ての花に水やりを終えた。じょうろを片付け、アルベールたちが話している机へと向かい、イスに座った。
「光君、お疲れ様です」
「お疲れーっす」
アルベール、クラシスと続いてねぎらう。
「ありがとう。何か話は進んだ?」
「僕の国では少しだけ。クラシスは何も……」
「まるで俺の国の中に別の国があるみたいで何もできねえんだ。だぁー!ちくしょう!」
クラシスは大の字になって倒れた。何かしなくてはいけないのに何もできずに悔しがってるようだ。
そんなクラシスを竜之介は光の向かいに座り、静かに見ていた。
「僕の方ではまだ調査中ですが、原因がわかり次第、隔離することも考えてます。物流を一旦止めるということもあるでしょう」
真剣なアルベールの顔を見て、改めて彼は国の王なんだと感じた。普段はふわふわ飛んでいるが、国のことになると真剣になる。アルベールのためにもこの戦いに生き残らなくては。
*
光と竜之介が屋上で部活をしているのと同時刻。葵は落ち着いた色合いのスカートにブラウスで学校の最寄り駅にいた。
ゴールデンウィークのため、人が多く賑わっている。
「お待たせ。遅刻しちゃったかな?」
葵に声をかけたのは、誰もがすれ違えば振り向くような整った顔の少年だった。
モデルやアイドルと言われれば納得できるような顔立ち。彼の少し明るい茶色の髪は、風にふかれて少し乱れた。
「いえ!まだ来たばかりです!」
「そっか、ならよかった。じゃあ行こうか」
「はい!
海と呼ばれた少年は葵に微笑み歩き出した。
葵もスタスタとついて行く。
駅前広場を通り、商店街を通る。そこにある少し大きめの本屋の前で海は足を止めた。
「ちょっとよっていいかな?みたい本があるんだ」
「もちろんです」
2人は店の中に入る。海はよく来ている店なのか迷うことなく店の奥へ進んでいく。
「あったあった。この本読みたかったんだよね」
海が棚から手に取ったのは1冊の小説。
嬉しそうに手に取った本を確認する。
「難しそうな本ですね。私、本読むと眠くなっちゃってダメなんですよー」
「そういうこと、僕にもあるよ。でも、1回読み始めて集中するとやめられなくなっちゃって困るんだよね」
海は恥ずかしそうに笑った。そしてレジへ向かうとき、海はまた足を止めた。
「あ、君は1年生の早瀬君じゃないか。奇遇だね」
海が足を止めて見た先には葵と同い年位の少年が参考書を見ていた。
「ああ、どうも」
少年は素っ気なく軽く会釈して、視線を本の方へすぐ戻した。
そんな少年に海は近づく。180ある海の方が背が高く、少年は小さく見えた。しかし、2人とも顔が綺麗で見ているだけで目の保養になりそうだ。
「そんな素っ気ない対応なんて悲しいなぁ。そろそろ仲良くしてくれてもいいじゃないか」
「俺は仲良くしたくないんで。失礼します」
少年は目を合わせることもないまま店を出て行った。海はニコニコしたまま少年を見送る。
「後輩なんですね。何だか冷たい対応でしたが……」
「いつもそうなんだよねー彼。かなり優等生だし、絶対生徒会に入ってほしいんだけど断られちゃって」
海は苦笑いしながらも会計を済ます。
「生徒会長さんはそんな仕事もあったんですね。お忙しいのにお時間とっちゃって……」
「やだなぁ。大切な彼女のためなら時間なんてとれるよ」
「彼女だなんて、照れますね」
2人で仲良く話をしながら店を出る。
そのまま商店街を抜けて落ち着いた雰囲気のカフェに入り談笑した。
葵はその日の夜、本屋で出会った少年のことが頭から離れなかった。
どこかで見たことあるような顔。綺麗な顔立ち、見たことがあるならば印象に残っているはず。しかし思い出せない。
モヤモヤしていると、ヒリスが今日持って行ったバッグから顔を出した。
「今日は一層ニヤついていますわね」
「いつ会ってもかっこいいし、優しいの!」
葵はモヤモヤしていたことよりも、海とのデートしたことを思い出してニヤつく。
ヒリスは葵を見て、あきれた顔をしている。
「初めてあの方を見ましたが、何か隠してそうな感じがしたんですよね、勘ですけど」
「勘って……竜之介先輩みたい!あんまり勘に頼ってると竜之介先輩になっちゃうよ」
「それは嫌ですわ!クラシス様みたいになるならいいですけど!」
「あはは」
静かな夜に葵の笑い声が響いた。
思ったより大きな声を出してしまったことに気づいて慌てて口を塞ぐ。
ベッドに入って寝ようとする頃には、モヤモヤもなくなり、楽しい気持ちで胸をいっぱいにし眠った。
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