第11話 襲撃(2)
狐面の男の手には刀。男と判断したのは体格もそうだが、黒のタートルネックに青と白のどこか幻想的な和服。これで男だと認識した。男は光たちに背を向け、サラリーマンの男を見ている。
「なんだ、貴様!邪魔をするなぁぁぁ!」
攻撃を防がれたと思ったサラリーマンの男はひたすら撃ち続ける。狐面の男は冷静に刀で銃弾と思われる攻撃を切った。
「化け物か!死ねぇ!!」
ひたすら撃つが全てを狐面が防ぐ。
撃ち続けてスタミナが切れたのか攻撃が止まった。
「何ででない?くそっ!」
狐面の男はここがチャンスと男に近づく。そして的確に王の胸を刀で刺した。
「がはっ……」
サラリーマンの男と契約していた王は刀に刺されると血を吐き出し、光の粒となって消えた。
王を刺したということは、王が見えていたということだ。つまりは狐面の男も契約者だということがわかった。
「ひいっ!」
自分と契約していた王が目の前で刺されて消えていった様子を見ていた男は鞄を持って慌てて走って逃げる。途中で何もない場所で転んでいたが、狐面は追いかけなかった。
「あんなあっさりと……殺した」
ただ見ているしか出来なかった新島が口を開く。光は何も言葉がでなかった。
「彼は強いです……光君、逃げましょう?」
光は狐面を見たまま動かない。切られるのではないかという恐怖で動けなかった。
「竜之介!逃げるんだ!」
クラシスも新島に警告する。が、新島も動かない。
動けない2人の方を向いた狐面の男は、少しずつ近づいてきた。
「光君!」
「竜之介!」
動けない2人。このままでは切られてしまうと思ったアルベールとクラシスは、自分の契約者を守るため、2人の前に立った。
王が死ぬか契約者が死ぬか、どちらかが死ねば争いから解放される。2人の王は自分の首が飛んだとしても、契約者を守ることを選んだ。
狐面の男が数歩だけ近づいたところで足を止めた。そしてどこからが取り出した何かを地面に向けて投げつけた。すると強い光が辺りを包む。
4人は思わず目をつぶった。何が起きたかわからず、様子をうかがうためにうっすら目を開けて見たときには、狐面の男の姿はすでになくなっていた。
「助かった……のか?」
「多分そうでしょう……命拾いしました」
アルベールとクラシスは気が抜けたようで、力が抜けたように地面に座った。
「光、大丈夫か?」
「無理だ、あんなのがいるんだ……1年間地獄だ。死ぬしかない」
光は膝を抱え頭を押さえた。新島はその気持ちに共感したようで何も言わなかった。
「光君、辛いならば辞めていただいてかまいません。僕は君がそう決めたなら、この首を先ほどの方にでも差し出しましょう」
アルベールは光に優しく伝えた。
「そんな!?それじゃ国は……どうなるの?」
「僕の国はこの首を取った者の国に治められると思います。今の生活を保つことは出来ないでしょう」
光の頭にはスマホで見たアルベールの国を思い出す。皆が笑顔で活気ある国。それがなくなってしまうのと同時にアルベールの命もなくなる。
「そ、それはやだ……俺は!アルベールも!アルベールの国もなくしたくない……」
「光君……!やっと、僕の名前を読んでくれましたね……!」
アルベールは光のズボンの裾を掴み、反対の手で顔を隠した。きれいな髪の隙間から覗く耳が赤い。
「おいおいアルベール、お前泣いてんのか?」
「うるさいです!」
茶々を入れたのはクラシスだった。アルベールは怒ったように叫ぶ。
「ごめん、アルベール……俺頑張るよ」
光はアルベールの頭をゆっくりと指でなでた。アルベールは顔を隠したままだったが、裾を掴む力は強くなった気がした。
「さて!とりあえず帰ろうぜ」
新島はクラシスを片手で掴んで肩に乗せて立ち上がった。
光はアルベールを両手でやさしく包み肩に乗せ立ち上がり、自転車を起こした。
その後は誰にも襲われず、家に帰ることができた。
光は帰宅してそのままベッドに倒れ込む。そして枕に頭を埋めて、目の前で起きた事を思い出す。
いきなり攻撃してきた男。その契約した王を躊躇することなく殺した仮面の男。一度だけ防御の術を学んだからかろうじて攻撃を防ぐことができたものの、もしとっさにシールドを使えなかったと考えると恐ろしかった。
「ねえ、アルベール。俺アルベールを守りたい。強くなるにはどうしたらいい?」
「焦らなくていいんです。守る術を身につけていきましょう」
「そうだね」
「まずは……そうですね、体力は必要なので走り込みは続けますよ。あとはシールドを鍛えましょう」
「走るのかぁ……早起きだ」
「僕が起こしますよ。メニュー、考えときますね」
アルベールは机の上でニコニコしながら光を見ていた。目が合った光は苦笑いした。
「あ、そういえばあの仮面の男、あんなの着込んでたら目立つんじゃないか?」
「あれはおそらく、王が宿ってます。簡単に言うと、王の力であの姿をしているのです」
「アルベールもできるの?」
「まだ出来ません。姿を変えるようなレベルとなると相当な力です」
「そっか……」
「あの仮面に攻撃されてシールドを使ったとしても無意味だったと思います。それほど強いんです」
アルベールは悔しそうな顔をした。
「頑張るね、俺」
「僕たち一緒に、ですよ」
光とアルベール、2人は顔を合わせて決意した。
突然の奇襲、強くならなくてはいけないということを思い知らされた。強くなるために、アルベールとアルベールの国のシェルト王国を守るために。
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