第10話 襲撃(1)

 次の日からはランニングが始まった。

 生活のリズムを整えるためにも朝に走る。1人じゃ起きられないが、アルベールが目覚まし代わりとなり光を毎朝6時に起こす。


 朝はまだ寒く辛いが、走り終えると気分がよかった。


 しばしばスマホに、他の契約者が近くにいると通知がきていたが襲われることもなく始業式を迎えた。



「光!俺ら同じクラス!よろしくな!」


 学校へ向かいクラス発表を確認している人混みにため息をついていると、新島がこちらへやってきた。


「ほら、写真撮ってきた。確認してみ」


 新島がスマホので撮ったクラス発表の写真を光に見せる。

 拡大や移動をさせて自分の名前を確認する。2年1組に自分の名前はあった。そしてその2つ前には新島の名前がある。嬉しいことに鹿山は違うクラスのようだ。


「ほんとだ。ありがとう。今年もよろしく」


「よろしくな!頑張ろうぜ、いろいろと!」


 アルベールとクラシスは光と新島のブレザーのポケットから覗いてニコニコしていた。


 教室へ移動してから体育館での始業式。

 長い校長の話が退屈であった。


「……であるからして、えーっと、皆さんが何事も積極的にですね……」



 長い始業式が終わり、教室でのオリエンテーションをやっているとき、光と新島のスマホが同時に鳴った。


「誰ですか?ホームルームとはいえ授業中のようなものですよ?電源を切るかマナーモードにしなさい」


「はいっ。すみません」


「すんませーん」


 慌ててスマホを確認すると、契約者が近くにいるという通知だった。とりあえずマナーモードに設定し、何も入ってない引き出しにスマホを置くと、アルベールがポケットから抜け出してスマホを操作し始めたようだ。

 光の席は一番後ろのため引き出しの中を覗く者はいないため怪しまれる心配がない。


 2つ前に座る新島はマナーモードに設定してポケットにしまっていた。



 今後の学校の予定や教科書の購入についての説明をしているとき、引き出しからアルベールが声をかけた。


「光君、そのままでいいので聞いてください。学校の中にはいないようです。ですがまだ近くにいます」


 まだ1度しかシールドを使っておらず、実戦となったらどうしようとドキドキしていた。


「僕らのことを特定しているようには思えません。落ち着いて。深呼吸です」



 光を見透かしたように声をかけるアルベール。静かに深呼吸をすると落ち着いた。



 ホームルームが終われば今日の学校は終わりだ。終わりを告げるチャイムが鳴ると、新島が荷物を持って真っ先にやってきた。



「かえっぞ!」


「うん」


 新島が少し暗い顔に見えたが、急いで荷物をまとめてついて行った。


「なんか俺、今日いやな感じがすんだよ。こう、何か起きそうな?勘だけど」


「まるで野生の勘だな。だが、俺もそんな気がする」


 新島のポケットから顔を出したクラシスはそう言うとすぐポケットへ隠れた。


 自転車を押して新島と歩いていると、2人のスマホが振動した。着信があったときのように振動が長い。

 確認すると通知が次々ときていた。契約者が近くにいる通知が。


「これは……気をつけてください!近くにいます!」


 アルベールが注意を促す。

 新島が後ろを振り向くとそこには1人のスーツの男性がいた。



「間違いない……契約者だ。おまえらには恨みはないが死んでもらう」


 男は親指と人差し指以外を曲げて、手で銃の形を作る。そしてそのまま撃つように手を動かした。


 男との距離は10メートルほどはある。男の動作に危機感を感じた新島は自転車を押していた光を押して倒した。


 光が立っていた場所を何かが通過した。数メートル先にあった工事中の看板が音を立てて倒れたためにそのことを認識できた。



「何だ今の……」


 看板を見て驚いている新島。しかしクラシスはしっかりと男を見ていた。


「また来ます!光君、シールド!」


「え、そんなすぐに出来ないし」


「いいから!早く!」


 アルベールにせかされ一度だけ練習したシールドを再度試みる。

 壁のイメージをして手をかざす。以前より早くできたが、ギリギリ男の撃った攻撃をくらわず済んだ。


「へっ、光。やるじゃねえか」


「竜之介!俺らもやっぞ!準備はいいだろうな!?」


「任せとけ!春休みやったことは完璧だぜ、コラ」


「かましたれ!」


「おうよ!」


 光のシールドで守られた新島は両手で頬をパチンと軽くはたき意気込む。そしてポケットから黒いナックルを取り出してつけて走り出した。



「くそっ、何であたらねぇ!?く、くるなぁ!」


 男は再び撃とうとするが、撃つよりも先に新島の拳が男の顔を殴った。男は衝撃で地面に倒れ込む。男の頭の上に王がいたようで、倒れ込んだ男の顔を必死にたたいて起こそうとしている。


「嘘だろ。一発K.Oって……」


「焦ったのかもしれないな。近くにいると言われ、いつ襲われるかわからない。ならば先に襲うしかないと」


 気がついた男は新島に恐れ、立ち上がることは困難だった。


「済みません、すみません!もうしませんから許してください!」


「だってよ。どうする、光」


 シールドで少し疲れ、離れたところにいる光に新島は話を振った。

 傍観しようとしていた光は焦る。


「どうって言われても……勝ち負けなら殺すしかないって聞いたよ」


「俺人殺しになんてなりたかねえよ」


「竜之介の好きなようにすればよい」


「好きなように……ならクラシス、文句言うなよ」


「わかっておる」


「光も俺の好きなようにしていいか?」


「いいよ」


「サンキュー」


 新島はかがみ、男と視線を合わせて話しかけた。


「俺ら別に攻め込もうとはしてねえよ。争いたくないし、もうこれっきりにしてくれ。俺らからは攻撃しない。な?」


「こ、殺さないのか?」


「人殺ししたくねえよ!ムショなんてごめんだ」


 新島は立ち上がり光の方へ歩いてきた。男は死なずに済んだと安心したように見えた。新島が光の隣へ来たとき、男は再び撃とうと手を構えた。


「そんなの信じられる訳ないだろう!!」


 すっかり安心しきっていた光と新島。男の攻撃に対応が間に合わない。

 無理だ、と誰もが思い目をつむった。

 しかしいつになっても痛みはこない。

 恐る恐る目を開けるとそこには目元を覆う狐の面をつけた人物がいた

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