ウェディングドレスは誰が着る(2)

「そうそう、それもさ。いずれ近くの社宅に入るつもりで、オレは今実家からクルマ通勤で頑張ってるわけ」

「うん」

「でもかおるは、自分の実家の近くに住みたいって。ここでももうドンパチよ」

「それもあるあるだなあ、嫁さんにしたら自分の母親を頼ることが多くなるから近くの方がいいって考えるわけだから」


 理解を示す川村に、望月は口を尖らせてまた訴える。

「それはまあ、気持ちはわかるけど、毎日通勤するオレの都合を優先してほしいっすよ。これから仕事が増えるぞって上司から期待されてオレだってやる気になってるのに」

「嫁さんは仕事は?」

「パソコン教室のアシスタントやってますけど、今教えてる新人が立ち上がったら辞めるって」

「うーん……」

「比べてどうこう言いたくはないっすけど、オレはやりがいのある仕事をしてるつもりです。こんな、モチベが下がるようなことは勘弁っす。オレが我儘なんすか?」


「多分なんだけどさ」

 川村は口に放り込んだ軟骨を呑み込んでから話し始めた。

「嫁さん側の我儘は、まあ、言っちゃなんだけど、小さいことばかりなわけだ。ドレス選びに付き合えとか、名札を作れとか。やってやれないことじゃないだろ?」

「それは、そうっすね」

「対して、望月くんの、新居は職場の近くにっていうのは大きな問題だろ。嫁さんにしてみれば誰も頼れる人がいない場所に移り住まなくちゃいけない。考えてみろよ。ダンナには職場の人間関係が既にできてるからいいけど、嫁さんの方が圧倒的に家にいる時間が長くなる、その上この後、出産・育児って大事業が待っているのに、孤立無援にならなきゃいけない。これってどうよ」

「それは確かに……」

「天秤に掛けるのもなんだけど。新居についてはどうしても譲れないっていうならさ、その他のことは歩み寄ってやればいいんじゃないか。〈ふたりの結婚式〉なんだからさ。多分、嫁さんは共同作業にしたいんだよ。しっかり共同作業で夫婦になれれば、その後のこともふたりで乗り越えられるって、そういう確信? 安心感? がほしいんじゃないのか?」


 いつの間にか聞き入っていた望月の瞳がうるうるしていた。

「わかりました、アニキ。その通りっすね。オレはちっさいオトコでした。かおるのちっさい我儘にイライラして。オレ、オレ、恥ずかしいっす……っ」

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