第七話

ウェディングドレスは誰が着る(1)

「もおおお、付き合いきれないっすよ。式場選びならまだしも、ドレスの試着までいちいち付き合えって言うんですよ。男のオレが行ったってしょうがないじゃないですか! 友だちと好きに行ってくりゃあ、いいのに」

「そうなんだよなあ」

「一緒に行ったところでケンカになるのは目に見えてんすよ。どう? なんて訊かれたって、綺麗だよって言うしかないじゃないですか。どれがいいかな? なんてふられても全部同じなんだからどれだっていいんですよ、オレからしたら。そうすっと、真剣に考えてないってぷりぷり怒り出すんすよ」

「わかる、わかるぞ」

「ウェルカムアイテムっていうんですか? あれ、手作りしたいって言い出して。オレには席札を作れって、はあ? ですよ。金払えばやってもらえるのになんでわざわざ」

「ああ。おれも作らされたなあ。ちまちまと」

「マジっすか!?  意味わかんないっすよ。自分が好きでやるならいいんすよ、なんでオレにまでやらせるのかって話なんすよ」

「うんうん」

「だってふたりの結婚式でしょって。ちげーよ、おまえひとりで決めて、何がふたりの結婚式かって話なんすよお!」


 今日が初対面の川村を相手に、望月の愚痴は止まらない。

 既婚者の川村がいてくれて良かったとわたるは思う。自分にはまったく縁のない話に、どう宥めたらいいのか渉には見当もつかなかっただろうから。


「まあなあ、主役は花嫁だから。新郎なんか添え物よ、添え物」

「でも、背負うものが大きいのは男の方じゃないっすか」

「それを言い出したら泥沼になるぞ」

 行きつけの焼鳥屋の四人掛けのテーブル。ビールのジョッキを持ち上げて川村は苦笑いした。既にすっかりアルコールが回っている赤ら顔で、望月はちょっと黙った。

「男同士でガス抜きにならいいけど、本人に向かって言ったらダメだぞ」

「川村さあああん! アニキって呼んでもいいっすかあああ」


 駄目だ。こいつは完全に酔っている。渉の方が申し訳ない気持ちになったが、川村は面白そうに笑っていた。

「みんな通る道だからな。ガンバレ」

「たいへんっすね。結婚なんかやめちゃえばいいのに」

 何も考えていない遠藤の発言に、テーブルの下で川村から蹴りが入ったらしく遠藤はばたんとテーブルに突っ伏した。自業自得だ。


「結婚したら新居は? 裾野勤務になったんだろ」

 尋ねると、望月はとろんとした顔で渉を見て、それからはっとしたように目を見開いた。

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