男はみんな狼なのよ?(12)
「それは言いすぎ」
『俊くんは心配性なので。……とにかく、今日はありがとうございました。〈ひまわり〉に良くしてもらって』
「俺にできそうなことがあったから、やっただけだよ」
『ありがとうございます』
改めて囁いた茅子の声がいつまでも耳に残った。
「もおおお、すごかったですよ。羊に群がる狼って感じで。オンナどもが清水さんの近くをキープしようとして」
「わー、目に浮かぶわあ」
「いやあ。見応えありすぎて、そっちに気を取られて自分の狩りがうまくいきませんでした。遠藤さんがちょろちょろうざかったってのもあるんですけど」
「遠藤くんもさ、オオカミになり切れないハイエナなんだよねえ、あの子」
「あはは。ハイエナ、ハイエナ」
休み明け最初の出勤日。勉強会を兼ねた会議が終わった後で給湯室に向かうと、小永井のよく通る声が廊下まで聞こえた。おしゃべりの相手の蓮見さんは声を潜めているつもりのようだけど。
「あたしとしてはカヤコチャンを改造するのが楽しかったりするんですけど」
「磨けば光るものねー。いいなあ、若い子は可能性に満ち満ちてて」
「やー、そっち方向での清水さんの鉄壁のディフェンスも見ものでしたよ」
「あんたね、ほどほどにしないと自分が痛い目見るよ?」
「わかってますって。でもあたし気づいちゃったんですけど、カヤコチャンて……」
思わず息を潜めたとき、小永井の声も途切れた。ひょこっと壁の際から小永井が顔を覗かせる。
「立ち聞きですか。やらしー」
「ちがっ。聞こえてきただけだし」
「いいですけど。昨日は高山さん来なくて残念でしたし、今度みんなで行きましょうよ。地中海食堂」
「そうだね」
社交辞令だろうから渉も軽く返しておいた。
「いつまで仕事してんだよ、ほら、帰るぞ」
川村が急かしてくれたおかげで定時に切り上げて帰り支度をした。遠藤も一緒に三人でエントランスに下りる。
「休み中、家族サービスでずっと休肝日でさ。一杯付き合え」
「そーゆー魂胆すか。だったら」
「おごらねーよ。レジャー貧乏ですっからかん」
川村と遠藤がじゃれあっているのを聞きながら、渉は先にビルを出る。
「わーたーるぅ~」
いきなり情けない声がして、横からがしっと抱き着かれた。
「うわっ、なに!?」
「渉ぅ、オレもう限界だよ。聞いてくれよ」
高校時代からの友人、望月が泣き出しそうな顔で渉にしがみついていた。
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