男はみんな狼なのよ?(11)

「なんでそんなふうに言うの?」

『だって……』

 声が震えて、言い淀むような息遣いだけが耳に届く。


「街コンてどんなだったの? 何人くらいいた?」

 アウトコース気味に話題を変えると、きょとんとした気配の後、律儀に茅子は答えてくれた。

『男性と女性と十人ずつ、でした』

「カッコいい奴いた?」

『ええ? いえ、わたしあんまり覚えてなくて。貸し切りで美味しいごはんが食べれるって言うし、皆さん来るからって聞いて行ってみたら、知らない人ばかりでテンパっちゃって』

「遠藤のヤツ」

『いえ、きっとわたしがちゃんと聞いてなかったからいけないんです。なんかいろいろお話した気もするんですけど、覚えてなくて。お料理も、口に入れたときには美味しいって感動したのに、何を食べたのか覚えてなくて』


「知らない奴に連絡先訊かれたりしなかった?」

『ええ? どうしてですか?』

「どうしてって。街コンてそういうイベントだよ。良さそうな子がいればデートに誘いたくて連絡先訊き出す」

『そんな、そんなことはなかったですけど』

 清水がガードしてたのだろうな、と渉はそこは彼に感謝する。


『とても疲れて、早く帰りたくて。清水さんは気づいてたから、わたしを連れ出してくれたと思うんです。そしたら、足が痛くて歩けなくなっちゃって』

 声が小さくなっていき、「清水さんにもまた迷惑かけちゃいました」と茅子はかすれ気味な声でつぶやいた。

 渉の部屋は無音で、茅子の部屋もきっとそうなのだろう。お互いの呼吸だけを電話越しに感じる。


「ねえ。メシが美味かったんならさ、今度行ってみようよ〈地中海食堂〉。遠藤の出没スポットってのはあれだけど、店は俺も気になったんだ」

『デートですか?』

 思わぬ返しに、渉は黙ってしまう。

『や、ごめんなさい。調子に乗りました。皆さんとですよね。小永井さんも気に入ったみたいで、また来たいねって言ってたんです。お昼休みに行ける距離だし』


 自分の発言をごまかすように茅子は早口に言う。しまった。今更ふたりでとは言えない。痛恨のミスを犯した思いで渉は天井を仰ぐ。


『ご飯食べにお店には行きたいですけど、街コン? ていうのはもうヤダなって。俊にもいっぱい怒られちゃいました。あんなの、狼の群れに飛び込むようなもんだぞって』

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