男はみんな狼なのよ?(10)

 渉は肩を上げてTシャツの袖の匂いを嗅いでみる。そうか、こんな格好であんなに綺麗な茅子に触ろうとしたのだから、俊に怒鳴られたのも仕方ないかもしれない。


 頭からシャワーを浴びると、昨日からの物思いが泡と一緒に溶け出すように感じた。残ったのは顔を真っ赤にして俯いていた茅子と、なんだか寂しそうだった清水の微笑み。


 夕飯は天丼だった。さっぱりしたメニュー続きだったのに、いきなりのがっつり系登場にヘビーだよ、と心の中で突っ込む。やりとりから察するに、父親がそうめんにはもう飽きたと口を滑らせ母親がキレた結果、揚げ物投入となったようだ。自分だって揚げ物鍋の前で暑かっただろうに。


「お、やったね。がっつり食べたかったんだ」

 沈鬱な顔つきの父親に気づきもせず真美はぱくぱくと嬉しそうに天丼を食べていた。なんだかんだ渉もすぐに平らげ、早々に自分の部屋に引っ込んだ。


 ベッドに寝転んでスマートフォンを手に取る。不在着信の表示に心臓が跳ね上がる。一緒に体も跳ね上げて上半身を起こし、渉は画面に見入った。


 ほんの十分前に茅子から着信が入っていた。「増田茅子」という表示を食い入るように見つめる。箱根旅行に先立ってラインで連絡先を交換してはいたが、公私混同だと思われたくなくて「よろしく」のスタンプを送ったきりでやりとりはしていなかった。


 どどどどどうしよう、電話、折り返し電話をしなければ。画面をタップしようとした瞬間、指が触れる前に表示が通話画面に変わる。着信音が鳴り出すより先に、渉は受話器のアイコンを押していた。


「もしもし!」

『あ……』

 びっくりしたような声が漏れ聞こえる。

「高山です」

『あ、はい。増田です。何度もすみません。今、話してもいいですか』

「うん、大丈夫。足は平気?」

『ただの靴擦れですから。あの。それより、今日はすみませんでした。一生懸命修理してくれてたのに、わたしは遊びに行ったりして。恥ずかしいです』


 声の調子から、茅子がまた泣きそうな顔をしているのではないかと思った。

「なんか、行き違いがあったみたいだし。大体、遠藤のせいなんだよ。俺は気にしてないし」

『…………わたし、またやっちゃったなって。調子に乗って、気遣いが足りなかったなって』

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