男はみんな狼なのよ?(9)

 茅子は顔を真っ赤にしてぶんぶんと首を横に振る。

「俺がおんぶしようか」

 便乗して渉が口走ると、茅子は首を竦めるようにして更に顔を赤くした。

「どさくさに紛れて何言ってんだよ!」

「だってクルマあるし、送っていけるし」

「あの距離歩くならかやこのアパートに着くっつうの」

 高校生にやり込められて渉はぐうの音も出ない。


「あ、あの……」

 上目遣いに男性陣を見上げ、茅子は消え入りそうな声で言った。

「俊くん、お願い」

「まかせろ」

 どや顔で渉たちを見て、俊はかやこに背中を向けてしゃがんだ。

「ほら、靴もオレ持つから」

「うん。ごめんね」

 茅子を背中におぶって鞄と靴を器用に持って、俊は身軽に立ち上がった。


「清水さんも、高山さんも、ありがとうございます。すみませんでした」

 目線が高くなった位置で、恥ずかしそうに俯きがちにようやくのように茅子は挨拶した。

「お疲れ。また会社で」

「いや、俺は何も……俊くん、気をつけて」

「あ? 誰に言ってんだよ」

 最後にぎろっと睨まれて苦笑いしか浮かばない。少しは仲良くなれたような気がしたのだが。


 下りのエスカレーターに乗って遠ざかる姉弟を見送っていると、頬に視線を感じた。しげしげと清水が渉を見ている。

「なんすか?」

 ついぶっきらぼうになる渉の口調に清水は笑った。

「抜け駆けしたつもりはないよ。俺もカヤコチャンも、高山が来るもんだと思ってたんだ。遠藤の話はよくワカラナイから」

「……まあ、そうですよね」

「カヤコチャン、がっかりしてた」


 低く声がかすめたと思ったら、清水は既に下りエスカレーターに足を乗せていた。渉は急いで後に続く。

「もうすぐ五時だな。せっかくだから飲んでくか?」

「いや。俺、クルマなんで。軽トラ工場に戻さないと」

「そうか」

 駅構内の中央通路を夕暮れの風が吹き抜ける。まだまだ湿り気を帯びてはいるけど、日中の熱気を払うようにいくらか涼しく感じる風が、季節は晩夏に向かっていることを教えてくれる。


「高山」

 別れ際、名前を呼ばれた。

「俺はまだ負けてないから」

 言われた言葉の意味を考えるよりも、少しだけ寂しそうな清水の微笑みの方が気になった。





 一応報告をと、父親に修理箇所の仕上がりの画像を見せた。

「まあまあできたと思う」

「そうか」

 父親はすぐに視線を夕刊に戻す。

「油臭いって母さんに叱られるぞ、風呂入ってこい」

「え、ウソ」

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