男はみんな狼なのよ?(7)

 薄暗い店内を覗くと、奥のテーブルで数人の男女に交じって小永井が楽しそうにグラスを傾けている。

「高山が電話に出ないから、ダメもとで清水さんに頼んだんだよ、そしたら、カヤコチャンが来るならいいよって言うから。小永井までカヤコチャンも誘えって言うし」


「それで茅子ちゃんは」

「だからもう、終わったから。清水さんと出てったよ、さっき」

「なんで止めとかないんだよ、動くなって言っただろ!」

「は? だからオレ動いてないけど」


 遠藤は元から大概だが、今の自分はもっとダメダメだ。落ち着かねば、と思い至って渉は手で顔を覆いながら、もういい、と遠藤の肩を叩いた。

 店の前を離れ人で込み入る商店街を出る。


「清水ってだれ?」

「すごく仕事ができてステキな人、だよ」

 さっと俊の顔が強張る。手に握っていたスマートフォンを操作する。

「やっぱ出ない。かやこのヤツ、スマホ鞄に入れっぱなしで気づかないことの方が多いんだ」


 頭をかきむしりたい衝動を堪えながら渉はじっと考えた。

 清水はこのまま茅子を帰すだろうか。職場で彼女の信頼を獲得しつつじっと好機を窺っていたはずだ。絶好のチャンスじゃないのか、今。

 ――焦りは禁物だろ。

 渉にそう言ったのは清水だ。一度失敗した渉と違い、清水にとっては機は熟しているのじゃないか? 彼が本気で口説いたなら茅子はどうする?


 渉の眼裏に、顔を真っ赤にして涙ぐむ茅子の顔が浮かんだ。

 ――フケツです!

 渉にキスされて泣きながら怒っていた。だけど清水なら? 受け入れるのか? 清水なら。

「――――――!」

 日差しの熱さもあって頭の中がぐだぐだになる。耐えられなくなって声なき声をあげて地面を蹴りつける。


 そんな渉の隣で、俊は茅子の姿を探すように駅前のロータリーを見渡していた。その鋭い目つきに気持ちが冷えて、渉の頭も冷静になる。


 清水ならどこに茅子を連れていくだろうか。夏になる前に三人で行ったオムライスの店だろうか。あそこならケーキやお茶のメニューも充実していた。茅子もあの店を気に入っていたはずだ。もしかしたら。


「…………いた」

 渉の推理をよそに、俊が声をあげた。

「え?」

 問い返す間もなく俊は駅構内へのエスカレーターに向かう。

「ちょっと、俊くん」

 エスカレーター脇の階段を駆け上る俊に渉はどうにかついていく。駅ビルの中に飛び込もうとする俊の手をつかまえる。

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