第六話

男はみんな狼なのよ?(1)

〈ひまわり〉からの帰り道、電車の中で真美が尋ねてきた。


「あたし、そんなにひどい顔してた?」

「何が?」

「先輩が慰めてくれたの。大丈夫かって。園長は相手が大人だろうと子どもだろうと、ハードな現実と理想論を同等に語るからびっくりするだろって」


 そう話す真美は、まだしっくりきていない顔つきだ。

「確かにびっくりしたし、動機はミーハーだったけど。でも、行って良かったって思うよ。レポート、しっかり書かなきゃ」

「えらいじゃん」

 素直に褒めてやると、真美はふふんと簡素な胸を反らせて見せた。


 その夜、わたるはスマートフォンで撮影した画像を見せて、父親に相談した。

「この階段の修理、俺にできるかな?」

〈ひまわり〉の建物の外階段、その一段目だけ踏み板がほぼ割れてくの字に曲がってしまっていた。

「コンクリート板か?」

 老眼鏡をかけて父親は渉のスマートフォンをを持つ。


「うん、スコップか何か打ちつけちゃって割れたとかって。他の段を見ても劣化は少ないし、鉄骨自体は改装工事のときに補強したんだって。だから踏み板だけどうにかできるなら」

 父がたどたどしい指付きで画面をスワイプして画像を切り替えるのに合わせて渉は説明する。


「おまえはどうするつもりだ?」

「アングルで枠を作って土台にすれば、パテで補修できるかなって。どうかな」

「寸法は?」

「はかったよ」

「明日の朝、切ってやる」

「軽トラと溶接機借りていい?」

「パテはないぞ」

「ホームセンターで買ってくる」


 話が決まって、渉は〈ひまわり〉に電話をかけた。

『ほんとに直してもらえるの? 渉さんが?』

 フラットな丸山園長の口調は驚きに満ちていた。

「はい。明日の午前中に材料を準備します。窺うのはまた昼すぎがいいですか?」

『ええ、そうね。ほんとに大丈夫?』

 念を押されると自信が揺らぎそうになるが、渉は小気味よく「はい」と答えておいた。電話ではなく、表情を見られていたらあの鋭い園長さんには見透かされていただろうなと思う。


 先にお風呂に入ってと母親に急かされてカラスの行水で入浴をすませる。

 なんだかどっと疲れて自室のベッドに横たわると一気に眠たくなってきた。朝寝坊した割に早く寝付けそうだ。


 寝入る前にとスマートフォンをチェックする。それで同僚の遠藤から着信があったことに気づいた。休み中だというのになんだろう。

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