小さな恋のメロディ(14)
「風が出てきたわね。日陰にいれば涼しそう。外に出ましょうか」
誘いかけられて渉は頷いて立ち上がった。
出入り口の掃き出し窓を開けると、熱気は相変わらずでも風が吹き抜けるのが心地よかった。夕立がくれば一気に涼しくなりそうだが。
園庭のぶらんこのそばには大きな樹木が、砂場の上にはパーゴラがあって日除けになっていた。ぶらんこの横に立って小さな子どもたちを見守っている茅子の姿を渉は見つめる。
頬に視線を感じて振り向くと、丸山園長がまた渉を見ていた。それで渉は、自分がまた「申し訳なさそうな」顔になっていたのだと自覚する。
「まずは、同じ目線で同じものを見ることです。感じたり考えたりするのはそれからです」
丸山園長もまたフラットな調子で言う。
「小さなことから、自分ができると思ったことから始めてください」
「はい! それならあたしは、あの子たちと一緒に遊びます!」
いきなり妹の声がして渉は驚く。いつの間にか出てきていた真美は、ちょうど園長の言葉を聞いていたようだ。
元気よく園庭に走り出して砂場へ行き、砂遊び用のくまでで砂を弄っていた男の子に話しかけたようだった。だが男の子は顔を上げない。真美は気にせず、向かいで自分も砂を掘り始めた。
「あの子は、短期入所している子です。学校がいうところの問題行動が多く、お母さんが気を病んでしまって」
しばらくてんでに穴を掘ったり山を作っていたふたりだったが、そのうち男の子の方が真美のことを気にしだした。
真美が砂の山にトンネルを掘り始めると、それを助けるように反対側から山をつっつき始めた。真美が手を差し込むと、男の子の方から指が見えたらしい。
歓声があがり、その瞬間山が崩れてしまって、もっと声が大きくなった。
ぶらんこで遊んでいた二人の子どもも合流して、みんなでまた砂山を作り始める。
にこにこしながらそれを見ていた茅子の顔が、渉の方を向いた。渉はとっさに右手を上げる。茅子もぱっと右腕を上げて、それから恥ずかしそうに指を泳がせてから腕と顔を砂場の方に戻した。
渉も照れ臭くなって右手を頭にもっていきながら顔を横に逸らす。
その視線の先、建物の脇に二階の通路に続く外階段があった。その一段目の踏み板がひしゃげて曲がってしまっている。渉はじっと視線を注いで考え込んだ。
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