小さな恋のメロディ(13)

 言い淀んでいると、丸山園長はじっと渉の目を見た。

「率直に言ってみて」

「……不毛だなって」

「そうね」


 ふっと息を吐いて丸山園長は窓の方へと顔を向けた。渉も首を捻ってそちらを見る。

 中学生か、小学六年生くらいの男の子ふたりがサッカーボールを蹴りながら園庭に駆け出し、もっと小さな子どもたちに囲まれて茅子が遊具の方へと歩いて行くところだった。後姿の茅子は大きな麦わら帽子を被っていた。


「私は、あの子はもっと欲張りになってもいいのにって思うの」

 その声は、それまでとは少し違うトーンに聞こえた。

「手伝いに来てくれるのは嬉しいけれど、それもどうかなって思いもするし」


 渉が頭を戻すと、丸山さんは複雑そうな表情をしていた。

「社会に出て、いっそう孤独を感じて、施設出身者同士でホームシェアしたり集まったりということは多くて、それは素晴らしいことなのだけれど、同じ境遇の者だけでコミュニティに閉じこもってしまうのはよろしくない。やっぱり、広いつながりを持たなければ」


「増田さんは、会社でうまくやってます。先輩からも頼りにされてて仲良いし、先月も社員旅行に参加してくれたし」

「ええ。そうなのですってね」

 とても優しい表情になって丸山園長は頷いた。

「いい人たちばかりだって、聞いてます。私も嬉しいわ、ありがとう」

 慈愛に満ちた眼差しを向けられ、渉は気恥ずかしくなってしまう。


「姉弟がここに来たばかりの頃はね、俊さんの方が引っ込み思案でいつも茅子さんの後ろに隠れていたの。茅子さんは、大丈夫よーお姉ちゃんが一緒だからねーって俊さんの手を握って。大丈夫よーって、おばあさまの口癖だったのですって。きっとご両親が亡くなったとき、おばあさまはそう言って孫を励まされたのでしょうね。茅子さんはそれを真似して、一生懸命俊さんを励まそうとして」


 その祖母の言い付けを守って、茅子は真面目に丁寧に仕事をこなすのだということを渉は思い出した。愚直なくらいに。


「俊さんは、茅子さんが大好きで、大きくなったらお姉ちゃんをお嫁さんにするからずっと一緒に暮らそうね、なんて」

 丸山園長はこらえきれないようにくすくす笑いだした。

「それが身体も態度もあんなに大きくなって。子どもが成長するのってあっという間なのよ。そりゃあ私も白髪が増えるワケだわ」

 そこでふと笑いを引っ込めて、日差しの方へと目を上げる。

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