君を・もっと・知りたくて(16)

「擁護施設で育ったんです、わたし。小学生の頃に両親が事故で死んじゃって、その後、一緒に暮らしていたおばあちゃんも死んじゃって、それで。ですから、お土産はお世話になった施設の先生と、今いる子どもたちに。あ、お城の向こうの〈ひまわり〉っていうところなんです。もともと幼稚園だった建物を改装して、すごく可愛くて遊び場もあって。先生たちも優しくて、一緒に暮らしてた友だちもみんな仲良くて……」


 にこやかによどみなく話す茅子の口調はフラットだった。渉を見つめる茶色っぽい瞳の色も。


「わたしたち、あ、弟がいるんです。弟とわたしはラッキーなんです。姉弟一緒に同じ施設に入ることができて、親に虐待されて入ることになったわけではないし、施設によっては子ども同士のいじめもあるとか、でもそんなこともなかったし」


 すらすらと茅子は話し続ける。もう何度も口にした内容を、暗記した文面を復誦するように。


「弟はまだ高校生なのですけど、とても優秀なんです。だから中学に入る前に里親さんに引き取ってもらうことができて、そのご夫婦もとてもいい人たちなんです。養護施設出身者って、社会に出てもうまくいかないって心配されるのですけど、わたしはこうやって皆さんのおかげでお勤めできていますし」


 おそらく茅子は、相手の過剰な反応を引き出さないように身の上を話すことに慣れているのだ。


「会社の皆さんは知ってるんです。今年入社のおふたりにも知っておいてもらった方がいいかなって。あの……」

「そっか」

 何か言わない限り茅子はひとりで延々と話し続けるような気がして、渉は無理に声を押し出した。


 自分は全然、経験が足りない。こういうとき、何を言えばいいのかわからない。どんな反応が正しいのかわからない。それでもなんとか言葉を押し出す。

「そっか。たいへんだったね」

「いいえ、そんなこと」

 茅子は小さく笑ってから、一息つくようにストローに口を付けた。


「……あの、わたし、ちゃんとお礼を言わなくちゃって思ってたんです」

「俺に? 俺、何かした?」

「だって、高山さんが誘ってくれたから、こんなに楽しい旅行ができて。とても、ありがたいなって」

 じいっと渉を見つめて、茅子は言った。

「ありがとうございます」

 そんなこと。だって、何より望んだのは渉自身だったのに。

「……楽しかったよね」

「はい。とっても」

 ストローを回しながら茅子は明るく頷いた。

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