君を・もっと・知りたくて(15)





 翌朝はまた男性陣のコテージのテラスで、箱根園のショッピングモールのベーカリーで買っておいたパンとコーヒーで簡単に朝食をすませ、早々に帰宅することになった。


「明日はもう仕事だからな」

「お疲れさまです。ありがとうございましたー」

 集まったときと同じ場所で解散となった。


「じゃあ、あたしはバスなんで」

「オレも」

 お疲れさまーと手を振って小永井と遠藤はバスのりばへと向かう。

 残された渉と茅子は連れ立っていつものように駅舎へのエスカレーターを上った。

 復路は道も空いていたのでまだ午前十時を少しすぎたくらい。日曜日で中央通路の人通りも少ない。


 駅に隣接した商業施設の出入り口の前で、渉は思い切って足を止めた。

「あのさ」

「はい?」

 ポニーテールを揺らして茅子が振り返る。帰るだけだったからか、今日はコンタクトはやめてメガネに戻り、昨日とは色違いのジャージに薄いブルーのTシャツ姿だった。

「コーヒー飲みたいなあって思って。少し付き合ってくれる?」

「そうですね。わたしも飲みたいです」

 同意してくれたのが嬉しくて、渉はじゃあ、と促す。


 店内のエスカレーターを更に上がってコーヒーショップに入った。ふたりともアイスコーヒーを頼んでカウンターで受け取り、二人掛けの小さなテーブルに席を決めて荷物を足元のかごに入れ、向かい合わせに座る。


「よく眠れた?」

「はい。ぐっすり。わたし、どこでも寝れるタイプなんです」

「いいなあ。俺も寝つきは悪くないけど、昨日はさすがに」

「朝ごはんのときにも話してましたね」

 くすっと笑って茅子はストローでグラスの中の氷を静かに回した。

「夜、勉強してたっていうし、営業さんは大変ですね。わたしたちはトランプしながらおしゃべりしてたのに」

「おしゃべりって、俺の悪口言ってなかった?」

「いえ、高山さんのことは……」

「じゃあ、誰の?」

 あ、という顔をして茅子は口元に手をあてる。

「いじわるですね」

「ごめん」

 ちらっと上目遣いで睨まれて渉は素直に謝る。


「あーあ。帰ったら俺は昼寝だな。増田さんは?」

「一度帰ってお洗濯をして、それからお土産を置きに行こうかと」

「あれ、親とは別居?」

 いいぞ、さりげなく聞き出せてる。自画自賛で会話をつなげていたのに。

「あ、いえ。親はいなくて……」

 ぱちぱち二三度まばたきしてから、茅子はしっかりと渉の顔を見て言った。

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