君を・もっと・知りたくて(14)
あの返事を待つ時間が嫌いだ。どうしても平気になれない。
「友だちにも言われたんすよね、おまえは人の顔色窺うところがあるからって」
「いいんじゃないか?」
清水は足を組んでベンチの背にもたれた。
「ものづくりに携わるなら、みんなプライドを持ってる。俺たちはその手伝いをすることにプライドを持ってる。責任も。だから本当のところのニーズを読み取ってプランを勧めればいい」
「本当のところ」
「経営者がそうそう、腹を割って話してくれると思うか?」
「……思わないです」
「だろ。だから高山の洞察力だって役に立つ。そうと察すれば、本当にその会社の為になるだろう方法を考えて提案すればいい。それだけ信頼されることが必要だけど」
「そのためのゴルフや黒たまごっすか?」
「時代錯誤かな?」
問い返されて渉は首を横に振った。
「結局は、人と人との関係ですもんね」
言いながら、自分でも胸中でその言葉を噛み締めた。そうだ。結局は人と人だ。
「無理矢理勧めて契約書にサインをもらったところで後が続かない。それは研修でだってよく言われただろ。ポイントなんか気にするな。派手に稼ぐよりも地道に人間関係を固めていけ」
「はい」
「上へのフォローは係長が上手くやってくれる」
ああ、そうだろうな。あの係長はそういう人だ。渉はくすっと笑ってしまう。
「そういえば、蓮見さんがよく言うんだよな。営業は恋愛と一緒だって」
「れ、恋愛っすか?」
声が大きくなってしまって渉は口を手で覆う。口元だけで笑って清水は頷く。
「あのヒト、畑は違うけど前はセールスレディだったらしいから」
「ああ、そんな感じっす」
「じわじわじわじわ、時間をかけて仲良くなって、刈り取る。恋愛と一緒だって」
蓮見さんがやった手つきを真似しているのだろう。清水は手を回してみせる。その円の中心に茅子がいる気がして、渉は息を止めてしまう。
「……高山さ」
膝に腕を下ろして、珍しく歯切れ悪く清水は渉を呼んだ。
「カヤコチャンのこと、本気だったりする?」
「本気です」
そこはさすがに渉はきっぱり答える。もう間違えない。
「そうか」
清水は頷いて口を閉ざし、やがてウーロン茶の缶を持って立ち上がった。
「早く寝直そう」
なんの確認だったのだろう。気にはなったけれど、渉は大人しくそれに従った。
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