君を・もっと・知りたくて(17)
帰りがけ、出入り口近くの雑貨屋の店頭に茅子の視線が向かった。気がついて渉は茅子の目線を辿る。季節柄、日傘がそこに並んでいた。
「見ていく?」
渉は先に日傘が並んで下がっているスタンドに近づき、さっとポップに目を通した。
「ふうん。日傘ってカワイイね」
「そうですね」
後から近寄ってきた茅子の目が何種類もの日傘を眺めて泳ぐ。
「折り畳みじゃないほうが良いって、蓮見さんが言ってたので」
長傘タイプの日傘の、刺繍が入っているものに茅子の目がよく止まる。
「これ?」
縁に沿って小花の刺繍が連なっている紺色の日傘を渉が持ち上げると、茅子は目をぱちぱちさせながら頷いた。
「じゃあ、買ってきます」
「なんで高山さんが……」
「アンパンのお返し」
「や、あの、あれ、そんな高くないです」
「でも並ばないと買えないものでしょ、それを考えれば。これだってそんなに高いモノじゃないし」
「でも……」
値札を確認しようとする茅子の手をさっと避けて渉はレジに向かった。
ラッピングなどは大げさだと思い、反対にすぐに使えるように値札と一緒に他のタグなどもはずしてもらう。
「はい」
色違いの商品から値段を割り出そうとしていた茅子は肩を跳ね上げて渉を見返った。
「あの、でも……」
「もう買っちゃった」
ぐいっと手の中に押しつける。メガネのレンズの向こうで茅子の瞳が揺れる。
「ありがとうございます」
か細くつぶやいて茅子はきゅっと傘の柄を握る。
「大切にします」
「ははっ。大げさ。毎日使って」
「はい」
困り顔だった茅子がそこでようやく笑ってくれて、渉はほっとした。
そうだよ、自分が、彼女にこうしたいだけなんだ。これは自分のエゴなんだ。
駅の通路に出ようと自動扉の前に立ったとき、黒い影が目の前をよぎった。
「あれ?」
日傘を持った茅子が慌てて走り出る。
「おーい、
続いて駅ビルから出た渉の目に、下りエスカレーターを無理矢理駆け上って戻ってくる青年の姿が映った。以前、週末に茅子と一緒にいたあの青年だ。
「どうしたの?」
「どうしたのじゃねえ。今から帰るってメッセは来たのに、なかなか帰ってこないから」
「ああ、ごめんね。もしかしてうちで待ってたの?」
「うん」
膝に手をあてて体を屈め、息を整えていた青年が、渉を見る。
「だれ?」
瞳を険しくし、声のトーンまで低くなる。
「あ、あのね。今、コーヒーを飲んで日傘を買ってもらって」
「……はあ?」
ぐいっと茅子の肩を抱き寄せ、青年は渉を睨み上げた。
「あんた、かやこのなんなのさ?」
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