君を・もっと・知りたくて(12)

 ただし、大きく違う点がある。子どもの頃見たアニメでは機械と人間が一緒に描かれていて、だから未来の技術を身近に楽しく感じた。

 それが一転したのは映画『チャーリーとチョコレート工場』の冒頭で完全オートメーション化されたチョコレート工場を見たときだ。あの工場には、人間の姿がなかった。機械ばかりで。無機質な映像に胸の中がひんやりなった。


 今やものをつくるのはロボットの仕事だ。零細の町工場でさえ溶接ロボットを使っている。

 単純な作業しかできないかに見えるロボットだが、上を見れば機械学習やディープラーニングによって自ら答えを見つけ、作業の変更に自ら対応するロボットが登場している。その都度プログラミングの必要すらないのだ。


 工作機械の方はといえば、渉たちが勧めるマシニングセンタはチェンジアームによって自動で工具を交換し、一台で複数の加工を行うことができる。5軸制御ともなると材料を一度固定するだけで向きを変えるのに置き換える必要もない。


 とはいえ、製品の取り出しやチェックには人間の手が必要だ。けれどそれも、コンベアや製品を箱詰めするロボット、材料をセットするロボットを併用すれば無人化はできる。

 人間の手作業と違ってマシンはミスをしない。熟練度によって仕上がりがばらつくことはなく品質も安定するし、育成コストもかからない、作業中の事故もなくなる。いいこと尽くめだ。


 だからロボット導入を進める企業には政府から補助金が出るし、それは製造業だけではない。サービス業でもだ。

 それなら、これまでの仕事をロボットに任せた人間は何をすればいいのか。何ができるのか。


 そんなことを考えながら寝入ったせいか、渉は自分が立型マシニングセンタの中で体育座りをして、伸びてきたアームが渉を撫でたりひっかいたり、横にしたり斜めにしたり、そんな夢を見た。

 こうやってメンテナンスをするみたいに人間の体を精査する複合型医療マシンができたりして、とぼんやり目を開けると、そこは自分の部屋ではない高い天井で、何やら不気味な轟音が部屋中に低く響いていた。


 渉の隣のベッドでは川村がすやすや眠っている。意外と寝相がいい。

 不気味な音は頭上から聞こえてくる。ロフトは遠藤が使っている。ということは、これは遠藤のいびきか。いびきなんだか呻きなんだか、ときおり歯ぎしりも混じっている。

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