君を・もっと・知りたくて(11)

 渉は遠藤とふたりで別棟の大浴場に行き、脱衣場の自販機で買ってきた牛乳片手にテレビで夕方のニュースを見ながらくつろいでいた。

 入れ違いにお風呂に行っていた川村と清水がコテージに戻ってくる。


「おーし。おまえら、酒は抜けたな」

 ジャージにTシャツ、首にタオルをかけた格好のまま川村がいきなり手を叩いた。清水が茶封筒を持ってきてローテーブルの上に中身を出す。

 彼らの会社でメインで取り扱っている国内メーカーの最新マシンのパンフレットだった。


「これがなんだかわかるか?」

「……5軸加工機ですよね」

 いきなり何が始まるのかと警戒しながら渉が答えると、川村はにやりと笑って仁王立ちになった。

「そうだ。5軸マシニングセンタ! 既にもう、6軸8軸なんてバケモノみたいなマシンも登場しているが、現実的にシェアが見込めて売り込むべきは5軸。それもわかるよな? というわけで、可愛い可愛いおまえらふたりに特別授業だ。清水先生がこってりレクチャーしてくれるからな。セールスポイントを徹底的に覚えろよ」


「ま、まじですかあ?」

 ソファに並んで座っていた遠藤が渉の方に倒れ込んでくる。

「だって今日、休日ですよね。仕事の話するなてヒドイっす」

「だから特別授業だって。受けたくないならいいんだぞ? エースのノウハウをゲットするチャンスをふいにするかしないかは自由だからな」

「受けます。教えてください」


 まだぐだぐだ言いたそうにしている遠藤をよそに渉はきっぱり答えて姿勢を正す。タブレットを操作していた清水は、にこりと笑って渉たちの方に画面を向けた。

「じゃあまず、この動画を見て」

 なんだかんだ遠藤もソファに座り直し、加工マシンのプロモーション映像を真剣に見始めたのだった。





 テレビの再放送で何度も見ていた『トムとジェリー』の真ん中の枠の「未来シリーズ」が好きだった。

 テックス・アヴェリーというアニメーターが手掛けた四本の短いアニメは、技術が進んだ未来の家や車やテレビが、ユーモアたっぷりに描かれていて面白かった。

 社会風刺の利いた映像なのだが、子どもの目から見れば単純にこんなふうなら面白いとわくわくしたのだ。


『こんなお家は』に登場する〈ウルトラ・スーパー・デラックス圧力釜〉は渉の母親も欲しがっている現在大人気のほったらかし調理器だし、パンとハムをカットしてリフルシャッフルで挟んでサンドイッチを作り、トランプのように皿に配るマシンだってもう実在していそうだ。空想にリアルが追いついている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る