君を・もっと・知りたくて(10)
「しっかし、近くて遠い、だね。箱根」
「近いと来ませんよねー」
「学校の遠足でもさ、関所と、あとは一足飛びに山中城跡とか連れてかれてさ」
「でしたねえ。なんもないんですよね、あそこ」
「あとはやたらと生命の星・地球博物館ね」
「でした、でした。オレらも!」
「あ、でも。黒たまごにハマって毎週買いに来てた時期があったかも」
「あったねー。清水くんがやたらと黒たまご配ってた時期。なんだったの、あれ」
「うーん……」
「どーせ、どっかの社長さんにたかられたんだろ」
「大涌谷なんてそれこそ外国人観光客が多くて近寄りづらくなっちゃったよね」
「仙石原ならそうでもないんじゃないですか? 秋にみんなで行きましょうよ。すすき野原」
「御殿場のアウトレットから流れてくるので混むぞ。あそこだって」
「あ、ねーねー。あそこでさ、キツネ見たことある?」
「あるわけないじゃないですか!」
「は? いるんだよ、キツネ。知らないの?」
「金時山にも登ったっけなあ」
地元あるあるは果てしなく盛り上がる。
ぬるくならないうちにと一本目の缶ビールを飲み干し、渉はまたトング係に戻る。
茅子の紙コップが空になっていたのでお代わりをするかと尋ねる。茅子は煙に目を細めながら手を振って「もういいです」と言った。
「カヤコチャン、そっち煙がひどいからこっちに座りなよ」
反対側のベンチに座っていた清水が立ち上がる。
「いえ。大丈夫ですよ?」
「いいから。そこに飲み物あるから好きなの取って」
「……はい」
茅子は素直に自分の皿とコップを持って渉とははす向かいの位置に移動してしまう。せっかく隣をキープしたのに。
内心でがっかりしながらバッテンに切り口の入ったソーセージを網の上で転がしている渉のわき腹に、ひやっと冷たいものが当たる。
新しいビールの缶の底を渉の体にぐりぐりしながら清水が笑っている。もしかして酔ってるのだろうか。
渉は眉をしかめながら缶を受け取り、プルトップをあけて立ったままあおる。ぷはーっと顔を下ろした瞬間、苦笑いしている蓮見さんと目が合ってしまった。
まだ明るいうちにバーベキューの片づけも終え、翌朝まで自由行動ということになった。とはいっても敷地の外に出るのも面倒だしコテージ内で皆ですごすのは変わらないのだろうが。
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