君を・もっと・知りたくて(9)

 駒ヶ岳ロープウェーで絶景を楽しんだ後、今夜泊まる箱根園コテージに移動した。森の中に一棟ずつ散らばっているコテージに最大四人で宿泊できる。

 男女別でそれぞれのコテージに入り、三十分後に男性陣のコテージのテラスで早々にバーベキューの準備を始めた。


 炭をおこしている最中なのに「作業用のガソリンだ」と言って川村がビールを配り始める。

「蓮見さん用にスパークリングワインがありますよ」

「ありがとう。最初はビールでいいかな」

 クーラーボックスに酒類とアイスクリームまで準備してきてくれた川村と清水に頭が下がる。


「カヤコチャンはカクテル?」

「ビールを飲みたい気もするけど」

「お腹いっぱいになっちゃうもんね。じゃあ、あたしと半分こしよーよ」

 生成りのブラウス姿からスウェットのズボンとピンクのTシャツに着替えた小永井は、紙コップにビールを注いで茅子と乾杯している。随分仲良くなった雰囲気だ。


 フロントでもらってきた食材セットは肉が多くて見るからにボリュームがある。

 茅子と小永井がトングを持って網に肉を並べ始めたが、茅子の手つきはいかにも不慣れで、渉が「代わるよ」と声をかけると申し訳なさそうな顔をしながら素直に従った。


「こういうの久し振りだね」

「全体での飲み会もあまりできなくなりましたもんね。忘年会くらいで」

「ちょおっと誘ったくらいで飲みハラとかってさ、ほんとやめてほしいわ。つぶやく前にちゃんと断れっつーの!」

「ええ、あたし誘われたことありましたっけ!?」

「私の友だちの話よ」

「よかったー。びびったあ」

「カヤコチャンを誘うことはあっても小永井は誘わないよ。うるさいんだもん」

「いじめ! それがいじめですって。やめてください。泣いちゃいますよ」


 けらけら笑いながら小永井は手早く先輩たちの皿に焼きあがった肉をのせていく。一方、タマネギの焦げたのを皿に放り投げられた遠藤は「おおいい!」とがなっていた。うるさいと思い、適当に焼いた肉を渉が皿に入れてやると、子犬のような眼で礼を言われた。単純だ。


「増田さん、野菜は?」

「いただきます。なんでも」

 丁寧に焼いた肉にニンジンとキャベツを添えて茅子の皿に盛る。自分の皿にも適当に放り込んで腰を下ろして箸をとる。

 すると渉と同じタイミングで、茅子も食べ始めた。待っていてくれたんだな、と渉は気恥ずかしくなる。

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