君を・もっと・知りたくて(7)

「先にお土産買っておこうか」

 食事の後には、レストランと同じく広々としたショップへと移動した。箱根園のグッズや土産物の種類がとにかく多い。


 会社への菓子折り選びは先輩たちに任せ、渉は母親と妹が好きそうな菓子を選ぶことにする。

 遠藤と小永井はなんだかんだ一緒に冷蔵コーナーのチーズケーキなんかを試食している。そういうのじゃなくて、たくさん枚数が入っているクッキーなんかでいいんだよな、と考えて渉はいろいろ見て歩く。


〈箱根ラスク〉はどうだろうかと眺めていると、茅子が隣に来た。

「このラスク、美味しいですよね。もらって食べたことあります」

「そう? じゃ、これでいいか」

 お手頃価格で財布も痛まなそうだ。そう思って八個入りを手に取る。続いて茅子も同じ箱を取った。それから〈箱根のお月さま。〉の八個入りも手に取る。それを見て渉も少し迷う。

「親父にはまんじゅうの方がいいかもなあ」

「ですよね、好みがそれぞれ違うでしょうから」


 どういうそれぞれなんだろう。ラスクとまんじゅうの箱を持ってレジに向かう茅子を目で追いながら、あのお土産を誰に渡すのだろうかと考えてしまう。


 ショップ内にはどんどん客が増えてきて、会計をすませた渉は先に外に出ていようと茅子を促した。

 人込みを避けて湖畔の広場へと出ると、ワゴン車販売のソフトクリームののぼりが目に付いた。

「食べる?」

「いえ、まだお腹いっぱいで。高山さん、食べたかったらどうぞ」

 自分が食べたかったわけじゃない。渉は笑って首を横に振る。


 人波を避けるように歩いて行くと、湖の波打ち際がもうすぐそこだった。そばにボート乗り場があって桟橋にはスワンボートが何艘もつながれていた。

 その向こう、アーケードの付いた園内のメインストリートからまっすぐに続く遊覧船のりばでは、観光客を呑み込んだ海賊船が、桟橋をゆっくりと離れていくところだった。湖面が波打ち、スワンボートが大きく揺れる。


 あの乗り場は、令和元年東日本台風の浸水被害があった場所だ。渉はニュースで見た映像を思いだす。今、茅子と立っている場所も、溢れ出した芦ノ湖の水で浸かってしまっていたのに違いない。


 芦ノ湖は、まるで山間を巨人が歩いて付けた足跡のように細長い湖だ。足の形に似ているからではなく、植物のアシがたくさん群生していたから「芦ノ湖」であるらしい。

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