君を・もっと・知りたくて(6)
打ちっぱなしなら大学の体育の授業で少し経験したし簡単にできると思ったのに。ぽてぽてと、近くの芝生に虚しくボールを転がす渉の隣で、清水がかっ飛ばす球は豪快に蒼穹へと吸い込まれていく。
くっそー、くっそー。黙々と打ち続けボールが入っているカゴの底が見え始めた頃、カッと、今までにない心地いい手応えを感じた。渉が打った球は湖に引き込まれるように弧を描き、バックネット近くの距離で芝生の上をぽーんぽーんと何度かバウンドした。
「ナイスショット!」
大げさに拍手してもらって、それはリップサービスだろうけど、単純に嬉しかった。
「もう、腕がぷるぷるです」
一度うまくできたなら、成功体験としてそこで止めておきたい。
「しゃーないな。残りのボールは遠藤にやっちまうぞ」
「ええ、ヤですよ、オレももう」
「おまえはほどほどにしか飛ばせてないだろ」
「オレは質より量なんすよ」
「おお、そうだな。それじゃあ量をこなせ」
「うえええ」
川村と遠藤の漫才を横目にクラブを戻した渉は、ベンチに座りたいと思ってプレハブ小屋へと入る。
「お疲れ」
自分の分はとっくに打ち終わって先に引き上げていた清水が、飲み物の自動販売機に小銭を入れてくれる。
「好きなの選びな」
疲れて喉も乾いていたし、渉は素直に甘えることにして、ブラックコーヒーの缶の下のボタンを押した。
渉たちが箱根園の駐車場に向かう頃には正午をとっくにすぎていて、場内は続々と訪れる車両でますます賑わい、空いている場所を見つけるのに時間がかかった。
もう午後一時をすぎてしまっていたけれど、蓮見さんたち女性三人は、広々とした和風レストランの一角で食事をしないで待っていてくれた。
「店の前、まだ並んでましたよ」
「そう? なら席を取っておいて良かった」
合流した七人はメニューを開いて注文を決める。
食事しながら話を聞いたところ、女性陣は水族館を楽しんでいたようだ。
「アザラシ可愛かったよねー」
「ペンギンもです」
「カヤコチャン、ペンギンの水槽の前から離れなかったもんね」
「ペンギンの体に泡がまとわりついてるのが面白くて。毛並みまでわかるんですよ」
「子どもたちの集団と交じっちゃっててさ、捜しちゃったよ」
「すみません」
親子丼を食べる手を止めて茅子は赤くなっている。渉はカツカレーを食べながら、見知らぬ子どもたちと一緒になって水槽に張り付いている茅子の姿を想像してみた。
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