君を・もっと・知りたくて(2)

「そういえば、男でも日傘を使うやつが増えてるってニュースで見たな。日傘男子とかって」

「確かに。年配の方が持ってるの見ましたよ、さっきも」


 瞳をちょっと瞠って渉を見上げていた茅子は、そこではて、と首を傾げた。

「どうして何々男子って、男子なんでしょうね。年配の方の場合もあるのに」

「ああ……。女の子の場合は山ガール釣りガールとかって、訳せば女子だからじゃないかなあ……でも、歴女、鉄女とかって女の場合もあるね、そういえば」

「山女、釣り女じゃ駄目なのですかね」

 果てしなくどうでもいい話だ。だが、こういうどうでもいい会話をふたりでできることが嬉しい。


 だが、いやいやきちんと話したいことがあったんだと渉は思い出す。

「あのさ、福利厚生の説明があっただろ、箱根園の」

「はい。毎年、営業所ごとに順番が回ってくるやつですね」

「あれって、従業員の半数以上が参加しないと実施できないんだってね」

「そうですね。去年はそうだったと」

「今年は、川村さんと清水さんと遠藤と俺と、蓮見さんと小永井さんも参加希望出すって。あと一人いれば半数以上になるって。増田さん、参加してくれない?」


「え、でも……」

 指を折って確認しながら茅子は眉をひそめる。

「係長がまっさきに名簿に名前書いてませんでしたか?」

「蓮見さんがお目付け役で行くなら自分は行かないって。そのほうがみんな羽伸ばせるだろって」

「また、そんな」

「もともと、人数次第で自分は抜けるつもりだったんだと思うよ」

 これは確かなことのようだから渉は断言する。あの係長はそういう人だ。


「箱根園コテージって、温泉もあるし夕食はテラスでバーベキューなんだよ」

「バーベキュー……」

 茅子がぴくっと餌に反応した。渉は慎重にリールのハンドルに手をかける。

「たった一泊だしさ。箱根なんてすぐそこじゃん。それほど気がまえることじゃないよ」

「そうですね……」

「川村さんと蓮見さんがクルマ出してくれるって。俺らくっついてけばいいだけだから」


 口元に手をあてて迷っていた茅子が、そっと目を上げる。ぱくっと食い付いた手応え。今だ。

 渉は勢いよくリールを巻く。巻く、巻く。絶対に逃がすもんか。

「このメンバーならさ、楽しいよ。きっと」

「そうですね。それなら」

 やった、見事キャッチだ。獲ったぞーと、渉は内心で両腕を上げる。

 もちろんリリースするつもりはない。

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